歴史ある「湯治」の文化を多くの人に伝えたい。 シェアハウスを通じて、湯治を取り入れた暮らしを実践中
湯治文化を伝えるプロデューサー 菅野 静さん
- 移住エリア
- 大阪府→大分県別府市
- 移住年
- 2019年
都会の会社で日夜バリバリ働いていた菅野さん。赴任先の海外でお風呂のありがたみを感じたことをきっかけに、全国の温泉を訪れるようになりました。そんな菅野さんが日本屈指の温泉街・大分県別府市に移住した決め手とは?現在の仕事についてもうかがいました。
目次
仕事が楽しくてバリバリ働いていた都会の会社員時代
大阪出身で、大学卒業後は広告会社やコンサルティング会社に勤務、昼も夜もない生活でした。中国・上海に赴任していた3年間はシャワーしかなく、お風呂のありがたみを感じて、帰国の度に全国の温泉を訪れるようになりました。特に日本古来の養生法の湯治という文化に興味を持ち、200カ所もの湯治場を訪ね歩きました。
そんな時に知ったのが、西の湯治場として有名な別府温泉郷の一つ「鉄輪(かんなわ)」でした。
1歳の子供と旅行で鉄輪へ
2018年、旅行で子供と鉄輪を訪れました。もうもうと湯気が上がる地獄の中に人の営みがある日常が、すぐに好きになりました。湯治宿の柳屋さんや、カフェ・ギャラリーの冨士屋さんの女性経営者から、ご縁があり鉄輪のことをたくさん聞かせていただきました。お二人の「女性が地域をけん引して、湯治を伝えていきたい」と奮闘される姿を見て、10年後の自分が見えた気がしました。
私は「温泉で何かやりたい」「温泉に毎日つかりたい」「子育てもきちんとしたい」と思っていたので、まさに一目ぼれでした。今は東京でリモートワークをしている夫は、当時は海外赴任中。子供は安全な日本で育てたかったので、私は会社を辞め大阪で一人で育児をしていました。夫が「自分が生き生きできる場所に住んだ方が、子供のためにもいいんじゃない?」と、移住を後押ししてくれました。待機児童がゼロだったことも決め手になりましたね。
仕事で頭も心もパンパン、という人のための心の湯治場のような場所を
旅行で訪れてから4か月後、2019年3月に移住しました。移住後は、毎日温泉に浸かりながら開業準備をしたり、育児をしたり、鉄輪での生活を楽しんでいました。そんな生活こそ、つまり「湯治を取り入れた暮らしが売りになるのでは?」と思い至り、2020年に『湯治ぐらし』というシェアハウスを始めました。
空き家バンクで見つけた家を少し改装し、まず女性専用の5部屋のハウスをオープン。あっという間に満室となり、翌年『湯治ぐらし2』を、男性向けも欲しいという要望に応じて『湯治ぐらし3』も出来ました。当初は若い人に湯治を伝えたくてAPU(立命館アジア太平洋大学)の学生をターゲットに始めた『湯治ぐらし』ですが、いまは、10歳から82歳のまで各世代がそろい、住人全員が移住者です。皆さん何かに挑戦しようという気持ちになるようで、刺激しあい、町にも馴染んでいますよ。
鉄輪のポテンシャルを最大限に生かす
別府には日本で認められた10泉質のうち、7泉質の療養泉がそろっていて、上手く使い分けると肌にとても良いです。例えば日焼けしたときは硫黄泉に、肌が乾燥する時は保湿効果のある塩化物泉に入るとか。別府はものすごくポテンシャルに溢れてる。温泉マニアな私からすると、もっと利活用できるアイデアが湧いてきます。シェアハウスでは、腸活の先生から発酵調味料作りを習ったり、ヨガの先生を呼んだり、食と運動のプログラムも充実してきました。
移住してすぐ言われた「甘えていいんよ」という言葉
移住直後は、気づかないうちに子育ても仕事も、一人で頑張らなきゃと思っていたようです。その時に「甘えていいんよ」と声をかけられ、一気に肩の力が抜けました。都会にいると、自立していなきゃという気持ちが強いですが、今は「困った、困った。どうしよう~」と、思い切り甘えています(笑)。仕事が忙しくてイライラする時も、ご近所さんが子供を「預かっとくけん、お風呂行っといで」と言ってくれます。
土地のルールもあるけど、私は鉄輪に激惚れしているので、すごく新鮮です。「なるほど、この町ではこういう風にやるんだな」と、すべて前向きに考えられた。知らなくて当然だし、何でも聞けば周りの方が親切に教えてくれるので、とても感謝しています。
『湯治ぐらし株式会社』を立ち上げる
湯治のことをもっとアピールしたいという考えから始まった移住なので、アイディアはたくさん浮かびます。今年は『湯治ぐらし』を法人化しました。温泉カウンセリング、食、運動などのコンテンツがそろったので、湯治ワーケーションという形で提供しています。全国の自治体から温泉の利活用やワーケーションなどの相談も増え、アドバイザー契約もスタート。温泉と別の産業を組み合わせた温泉の新規産業開発に力を入れることで、地域に還元できたらいいなと思っています。
(※このインタビューはふるさと回帰支援センター発行の情報誌「100万人のふるさと」2023冬号掲載の内容をWEB用に一部再構成したものです)
湯治文化を伝えるプロデューサー 菅野 静さん / かんの しずか
1978年生まれ。大阪府出身。広告代理店勤務中に中国・上海に3年間赴任。温泉にはまり、退職後に別府市鉄輪へ移住。シェアハウス運営などを通じて」湯治文化を伝えている。
また、移住の経緯や現在の暮らしについては NHK移住ドキュメント番組「いいいじゅー!!」 でも取り上げられた(初回放送日:2023年11月7日)