小中学校で「海に関わる授業」をスタート。蒲郡市の懐の深さに、恩返しをしたい
アーティスト 山村 まい子さん
- 移住エリア
- 東京都→愛知県蒲郡市
- 移住年
- 2017年
東京生まれの山村まい子さん。美大を卒業後、都内の企業でプロダクトデザイナーとして勤務していましたが、三重県出身の夫との結婚を機に退職。双方の実家に便のいい愛知県に住み始めます。引越し好きが高じて愛知県内を転々としているうちに、海と山と人が魅力的な蒲郡市に移住。そんな蒲郡で”衝撃の体験”が待っていました。引越し好きだった山村さんが「みんな蒲郡においでよ!」と呼びかける理由とは?
目次
子どもたちをもっと海で遊ばせたい
三河湾に面した蒲郡市に移り住み、息子の友達を連れて海に遊びに行った時のこと。山村さんは思いもよらない発言に衝撃を受けます。
「海に入るのはじめて〜」
「えっ?蒲郡って海に面した町でしょ!なのに海で泳いだことないの?」
半信半疑で小中学生を対象にアンケートをすると、8割が「海に入ったことがない」という事実が明らかになりました。目の前に青い大海原が広がり、海水浴と温泉が楽しめるビーチまであるというのに!
サップのインストラクターを務める夫と「なんとかしたいね」と考えたのが、この物語の始まりでした。
蒲郡市の小中学生を対象に「海に連れて行く授業(オーシャンキッズ)」を2021年夏に開始。手弁当にもかかわらず「釣りなら教えられるよ」と仲間が集まって来ました。サップや釣り、お腹が空いたらBBQと1日海で遊んだ子どもの表情がみるみる変わっていきます。「明日はないの?」と海の授業を催促する子も。授業参観と称して様子を見に来た親も一緒に遊べば、先生まで浮き輪持参で楽しむようになっていきました。
4校から始まった取り組みは、現在は蒲郡市役所が中心に事業を進めている日本財団海と日本PROJECT「海・みなと・蒲郡」の事業として実施され、2023年には10校へ広がりました。
この事業の他にも、先生を対象とした波のアートの実習や、プラスチックゴミの問題を扱う研究授業へと活動は拡大しています。
市民の活動を支援してくれる蒲郡市
「豊かな自然に触れて自分のふるさとをもっと好きになってもらいたい」という移住者の情熱が行政を動かした、とも言えますが山村さんは、「市民一人ひとりが輝いてほしい。それを手伝うのが市の仕事」という懐の深さが蒲郡市にはあるといいます。
蒲郡市は2021年に、サーキュラーシティを目指すことを表明しました。循環経済を構築し、温暖化対策のみならず市民のウェルビーイングの向上に取り組み始めたのです。これが「つながる 交わる 広がる サーキュラーシティ蒲郡」というビジョンに結実。ビジョンを実現するには、一人ひとりが自分事として取り組むことが重要だ、として市民の自発的な活動を支援する姿勢となって現れているのだそうです。
山村さんは、海の授業などを通じて、2023年11月に市長と対談を行っています。自分が学校の教壇に立ったり、市長と対談をしたりする日が来るなど、移住前には想像もつかなったといいます。
アーティストとして生きる
もうひとつ、移住によって大きく変化したのがアーティストとして活動するようになったこと。
子どもたちと海との関わりを深めるために、自分にできることはなんだろう?
模索していた山村さんがたどりついたのが、自然由来の材料だけで作る「波のアート」でした。ホタテなど天然由来のインクで波を描いていくのですが、額縁などは廃材を利用し、コーティングする樹脂も大豆由来のものを利用しています。
自宅で開いていたワークショップも人気で手狭になり、2022年に海に近い場所にアトリエを開設。アトリエは制作工房となり、大人気ワークショップを開く集いの場、作品を展示・販売するショールームにもなっています。
幸せに子育てをする主婦という生き方から、アートを生業にアトリエを主宰するアーティストとしての生き方に。移住がもたらしてくれたもう一つの側面です。
本気で遊ぶ大人が街を幸せにする
豊かな自然に魅せられた、というのが移住を決意した理由でした。
しかし、そこに住んでみると、豊かな自然と触れ合わずに生活している子どもがいるではありませんか。
「もったいない、なんとかしたい」「もっと海で遊んでほしい」
そんな思いを行動に移すうちに、さっと手を貸してくれる仲間が集まってきました。子どものために、環境を守るために、理由はいろいろあれど、本気で遊べる得難い仲間ができた事がなにより幸せだったと言います。いまは、市民を大切にしてくれる蒲郡市に恩返しがしたいと山村さんは言います。
2024年に市制70周年を迎える蒲郡市。山村さんは、盛大なお祭りが開けないかと考えています。見るだけでなく蒲郡らしく市民一人ひとりが参加できる阿波踊りがいいのではないか。お囃子を引き受けてくれる仲間もいます。
山村さんはこう呼びかけます。
「みんな、蒲郡においでよ!」
アーティスト 山村 まい子さん / やまむら まいこ
1983年東京生まれ。美大を卒業後東京の企業にプロダクトデザイナーとして勤務。結婚を機に、夫の実家がある三重県との利便性を考え愛知県に転居。県内で引越を繰り返していたが、海と山の自然に魅せられ2017年に蒲郡市に定住することを決意。
子供達に海の魅力を伝える授業をするほかアーティストとして「波のアート」を制作。2022年にはアトリエを開き、ワークショップや企業研修なども行う。蒲郡市は、住むものが地域を自分たちで魅力的に彩ることができる特別な場所と感じている。