アウトドアの魅力を伝えたくて、設楽町へ。選手活動と地域おこし協力隊の両立を実現
オリエンテーリング日本代表選手、設楽町地域おこし協力隊 伊藤 樹さん
- 移住エリア
- 静岡県→愛知県設楽町
- 移住年
- 2021年
日本では野外アクティビティとして知られるオリエンテーリングは、ヨーロッパでは過酷な競技スポーツとして絶大な人気を誇ります。伊藤樹さんは競技オリエンテーリングのトップ選手として活躍しながら、愛知県設楽町の地域おこし協力隊として活動しています。
雄大な自然が魅力の設楽町での暮らしと、選手と隊員との両立についてうかがいました。
目次
オリエンテーリングは冒険のスポーツ。未知の世界に飛び込む面白さがある
地図とコンパスを使い、自然の中に設置されたチェックポイントを探してまわる「オリエンテーリング」。学生時代に遠足や林間学校で体験した人も多いと思いますが、実はヨーロッパでは世界選手権やワールドカップも行われるほど競技スポーツとして親しまれています。伊藤樹さんが、そんな競技オリエンテーリングに出合ったのは大学生の頃。
「陸上の長距離選手として活動していたのですが、他の競技も試してみたいなと思って、体験のつもりで始めたのがオリエンテーリングでした。森や山林など自然の中がフィールドになるので、コースには落ち葉や小枝がたくさん落ちていて、自分が走るたびパキパキと枝が折れる音が聞こえてくるのがとても新鮮で。アスファルトの上を走ることが多い陸上にはない楽しさを感じて、すっかりハマってしまいました」
野外アクティビティとしてのオリエンテーリングと違い、競技オリエンテーリングは高度なナビ技術と身体能力が求められるハードなアウトドアスポーツ。選手たちは地図を初見で読み解き、ポイントの位置や最短コースを瞬時に判断してゴールまでのタイムを競い合います。
「一言でいうと、冒険をスポーツにしたものですね。選手はスタート直前に初めて地図を渡され、よーいドン!で森の中に飛び出していくんです。未知の場所に足を踏み入れる怖さ、縦横無尽に走れる面白さ、ゾクゾクするような感覚が魅力だと思っています」
オリエンテーリングを盛り上げたくて設楽町へ
日本チャンピオンに輝き、世界選手権にも出場するなどトップクラスの選手として活躍してきた伊藤さんは、2021年に地元・静岡県浜松市から愛知県設楽町へ移住。地域おこし協力隊としての活動をスタートしました。移住先は奥三河と呼ばれる山間部にあり、9割を山林が占める森と高原に囲まれたエリア。「アウトドアの町・設楽」をスローガンに、自然を活かしたスポーツ大会やアウトドアイベントを多数開催しています。
「設楽町はオリエンテーリング大会が開催されていたこともあり、スポーツを通じた町おこしに熱心な方が多い地域だなという印象でしたね。そんななか、先に設楽町に移住してオリエンテーリングの普及に努めていた先輩から“やってみないか?”と誘われたのが、地域おこし協力隊に応募した理由です」
一歩外へ出れば、フィールドがそこにある恵まれた環境。その一方で地元は浜松、大学時代は横浜と都市部での生活が長かった伊藤さんにとって、小さなコミュニティならではの濃い人間関係に戸惑う時期もあったとか。
「あるとき近所にランニング好きな中学生がいることがわかって、一緒に走るようになったんです。そこから少しずつ仲良くなれる人が増えていったという感じ。そういう意味で、スポーツが助けてくれたのかもしれないですね。設楽町はどこに出るにも距離があるし、不便さを感じることもありますが、アウトドアに情熱のある人が多いこの町への愛着はどんどん強くなっていますね」
アウトドアを全ての人が楽しめるスポーツにしたい
協力隊としての伊藤さんの仕事は多岐に渡ります。町内で年に2回開催されるオリエンテーリング大会は、全国から参加者が集まる人気イベント。愛好者が満足できるコースをどのようにデザインするか、フィールドを熟知し、現役選手としての知見を活かした企画運営を考えます。その一方で、登山やトレイルランニング、山歩きなど初心者向けのイベントも企画。さらに全国で開催されるスポーツ関連イベントに参加するなど、“設楽町の顔”として飛び回る日々。
「もちろん選手としても大会に出場しています。ふだんは企画を考えたり、地図を準備したりといった業務をこなしながら、1週間100kmのランニングを目安にトレーニング。最近ではオリエンテーリング以外の競技にも挑戦しているのですが、自分がレースに出ることで設楽町やアウトドアの楽しさに気づいてくれたら嬉しいです。アウトドアは年齢にあわせて楽しめるのが魅力。僕の活動を通じて裾野を広げることができたら」
不便さを楽しむのが田舎暮らしの醍醐味
今後の目標をたずねると「3年連続で世界選手権に出場しているので、今年もぜひ出場したいです。それから設楽町で物件を買って、山歩きの拠点を作りたいというのが今の夢」という伊藤さん。最後に、これから移住を考えている人にメッセージをいただきました。
「田舎暮らしというと自然が豊か、人込みが少なくて過ごしやすい、時間がゆっくりしているといった良いイメージが思い浮かぶかもしれません。でもそれは、コンビニが近くにないとか、山奥だとか、不便さの裏返しでもあると思います。その不便さを楽しむのが田舎暮らしだと思ってほしいですね」
オリエンテーリング日本代表選手、設楽町地域おこし協力隊 伊藤 樹さん / いとう いつき
1996年、静岡県浜松市生まれ。高校時代に陸上の長距離選手として活躍後、大学でオリエンテーリング競技と出会い、以来日本を代表するトップ選手として国際的に活躍している。2021年10月、愛知県設楽町の地域おこし協力隊に就任し、同町へ移住。
アスリートとして競技大会に出場しながら、オリエンテーリングはじめアウトドアスポーツのイベント運営や、初心者向けアウトドア講座を開くなど「アウトドアのまち したら」の魅力を伝える活動を行っている。