海なし県から東京の島へ。島の農産物を育てながら、穏やかな式根島の魅力を伝えたい
アルバイト、農家 竹村 純菜さん
- 移住エリア
- 埼玉県→東京都新島村式根島
- 移住年
- 2023年
全国屈指の透明度を誇るビーチ、深呼吸したくなる深い森、星空に包まれる絶景温泉…周囲約12kmのコンパクトな島の中にさまざまな魅力がぎゅっとつまった東京諸島の式根島。人気の離島へ移住した竹村純菜さんは、島内でアルバイトをしながらこの春、農家としての活動をスタートしました。
移住者の受け入れが完備されていない小さな島で、彼女が切り開いた“むーさん”流移住術とは?
目次
大好きなアーティストがきっかけで式根島のリピーターに
「ずっと海なし県で暮らしてきたので、海が見える暮らしが本当に幸せです」
そう語るのは、東京諸島の式根島への移住を実現した竹村純菜さん。北アルプスの山々に囲まれた長野に生まれ育ち、社会人になってからは埼玉暮らし。そんな竹村さんが離島にハマったのは、あるアーティストの存在でした。
「式根島出身のアーティスト宮川大聖さん(みやかわくん)のファンで、彼が地元式根島のことを『すごくいいところだよ』とよく話していたんですね。一度行ってみたいなと思って、初めて一人旅をしたのが2018年10月です。式根島は人気観光地で夏にはものすごく混み合うんですが、オフシーズンは人も少なく穏やか。そういう島の静けさや人の温かさに惹かれたことや、夜に東京を出て朝に島へ着く大型船の旅も面白くて、島旅にすっかりハマってしまいました」
それ以来、伊豆大島や利島、新島、神津島、三宅島と、東京の島々を旅してきた竹村さん。それぞれの島には異なる魅力があるのだけれど、彼女のなかで式根島の存在がどんどん大きくなっていったといいます。
「式根島がいいなと思うのはサイズ感。大きな島では車が必須だし、端から端まで回るにはせかせかしないといけないけれど、式根島は1泊すればボーッとする時間ができるほど余裕があるんですよね。いろんな島を回ったことで、式根島が自分にとって一番居心地がいいと気づきました。年5~6回は島に通うようになって、いつしか『ここに住めたら楽しいだろうな』と考えるようになっていました」
「式根島産の明日葉を食べてほしい!」芽生えた農業への想い
移住先として考えると、式根島は人口500人弱の小さなコミュニティで、島民で知らない人はいないというほど人間関係が濃密です。賃貸物件がほとんどなく、家の確保は至難の業。また産業の8割以上が観光業で、旅行者は夏の海水浴シーズンに集中するため、年間を通じた収入の確保も課題です。そんな島の現状を知り、竹村さんが実行したのが「島でできること」と「島でやりたいこと」の整理でした。
「まずはどんな仕事ができるのか、地元の人に聞いてみることにしました。私、資格マニアでたくさん資格を持っているので、資格を活かして仕事ができないかなと思ったのですが、どうやら需要はなさそうだとわかってきて。じゃあ、自分は式根島の何が好き?という思いを洗い出してみたんです。それで、私は明日葉が好きだなって気づいて。内地のスーパーでは大島産や三宅島産の明日葉を見ることがあっても、式根島産は見たことがない。式根島の明日葉を作って出荷できるようにできないかと考えるようになったんです」
地元の人に「農業をやってみたいんですよね」と話していたところ、新島村の農業委員を務めている奥山敏仁さんを紹介され、島の農業について話を聞くチャンスを得ました。また島に滞在する間に商店の手伝いをするようになり、地元の人とも顔なじみに。会話を重ねるうちに、「あそこの家が空くかもよ」と情報を教えてくれることも増えてきたといいます。
「最終的には、奥山さんが営んでいるおくやま商店で働くことを条件に、アルバイト用の物件を貸していただけることになりました。移住を考えはじめてから1年ぐらいで実現できたので、私はラッキーだったと思いますね」
島の味を受け継ぎながら、静かな島の魅力を伝えたい
2023年に式根島に移住した竹村さんは、おくやま商店やレンタカー会社などの仕事をかけもちしながら、農家として奮闘中。奥山さんの畑を手伝いながら、明日葉をはじめ、焼酎の原料としても使われる白いさつまいも「あめりか芋」の栽培法を間近で学びました。新島村の就農支援で、先輩農家指導による研修も受講。2024年春からは農地を借り、新人農家として栽培をスタートしました。
「毎朝の時間とバイトの休憩時間を使って毎日畑に通い、週1日の休みはほとんど農作業に費やしています。夏の観光シーズンになるとほとんど休みがないので、忙しいといえば忙しいんですが、内地と違って良い意味できっちりしていないので、息苦しさは全然ないです」
今では「むーさん」と呼ばれ、すっかり島に溶け込んでいる竹村さん。今後の目標は?とたずねると「農業を軌道に乗せていくこと。島外に出荷している人は少ないので、そこまでいきたい気持ちはありますが、まずは大切な島の味を絶やさないように受け継いでいきたいです。あとは私が好きな、静かな島の良さを伝えていけたらいいな」と、奮闘はまだまだ続きます。
地元の人と積極的なコミュニケーションは大切
最後に、これから式根島への移住を目指す人にアドバイスをお願いしました。
「まずはオフシーズンの式根島に来てほしいですね。冬の島は風がすごく強くて、風の音が怖すぎて島を出て行く人がいるくらい。私はむしろ楽しい!と思っちゃうんですけどね。式根島には空路がないので、冬に海が荒れて船が何日も欠航すると島から出られなくなります。そういう島のリアルを感じてほしいなと思います。
あと島では人との距離が近いので、情報があっという間に島中にいきわたります。最近フットサルでアキレス腱を切ってしまって、しばらく実家で療養していたんですが、島に帰ってきたら会う人会う人に『ケガ大丈夫?』って言われました。そういうのが苦手な人もいると思いますが、私は島の人が気にかけてくれるのが嬉しいです。島に暮らすならコミュニケーションは大切にしてほしいなって思いますね。逆に悪いことはできません(笑)」
アルバイト、農家 竹村 純菜さん / たけむら じゅんな
1992年生まれ、長野県大町市出身。学校を卒業後、都内の映像・音響会社などいくつかの仕事を経験するかたわら、2018年に初めて旅した式根島にハマり、年5~6回通うリピーターに。2021年から移住を考えるようになり、地元住民の紹介で家と仕事を確保し、2023年春に移住を実現。
現在は島内の商店などで仕事をかけもちしながら、行政支援による農業研修を経て2024年春より農家として始動。