生きる力を育くむ保育園に導かれた移住先。人との縁に支えられ、訪問マッサージ師として新たな出発
鍼灸マッサージ師 吉澤 紘平さん
- 移住エリア
- 東京都・神奈川県・愛知県内→愛知県豊川市
- 移住年
- 2017年
仕事と家族の時間、自分にとってのベストバランスを求めて脱サラし、新たに鍼灸マッサージ師としての道を歩み始めた吉澤紘平さん。子育て環境を第一に移住先を探す中、運命的な出合いを果たしたのが豊川市でした。もともと首都圏に住んでいた夫婦にとって、豊川市は「住みやすい、いい具合の田舎」だと言います。なじみのない土地で、人脈がものを言う訪問マッサージを生業とするのは勇気のいることでしたが、地域の人たちの優しさに支えられ、家族5人で心豊かな毎日を送っています。
目次
家族との時間を大切にしたい。脱サラし、鍼灸マッサージの専門学校へ
東京で生まれ育った吉澤さんは大学卒業後、志望していた出版流通会社に就職します。入社3年目で名古屋に転勤した際、趣味のクライミングを通じて妻の枝里さんと出会い、2013年に結婚。当時は夫婦共に勤務先が首都圏に移っていたため、横浜市に居を構え、2014年には長男縁(えにし)君を授かりました。
ただ、吉澤さんの仕事は忙しく、帰宅は毎日遅い時間で、「この生活は続けられない」との思いが募りました。枝里さんも「もっと落ち着いた環境で子育てをしたい」と考えており、話し合った結果、吉澤さんは2015年3月に10年間勤めた会社を退職しました。
家族を養うため、吉澤さんがセカンドキャリアに選んだのが鍼灸マッサージ師でした。
「趣味のクライミングをやる中で、体の使い方や鍼灸に興味を持ちました。リハビリ効果もあるマッサージは高齢者の需要が高く、仕事として成り立つと考えました」
愛知県稲沢市の専門学校に入学し、ハローワークのセカンドキャリア応援制度を利用しながら、3年間で知識と技能を習得。わざわざ引っ越してまで愛知県の専門学校を選んだ理由は、
「鍼灸だけでなく、あん摩マッサージ指圧師という国家資格が取れる専門学校は数が少なくて。この資格があると、医療保険を使ったマッサージができるんです。東京にも学校はありますが、当面は妻の収入に頼ることになるので、家賃の高い首都圏では生活が厳しい。名古屋には自分も妻も住んだ経験があるので、ここ(稲沢市)に決めました」
移住の決め手は理想の保育園
国家資格取得のめどがついた頃、本格的に家探しを始めました。田舎暮らしへの憧れがあり、愛知や岐阜の移住セミナーにも参加しました。
「資格があればどこでも仕事はできます。ただ、田舎で暮らしたこともないのに、あまりに不便な所に住む覚悟はなくて」
なかなか決断には至りませんでした。
移住先を選ぶ際、もっとも重視したのが保育園でした。
枝里さんは言います。
「私も働いているので、子どもはかなり長い時間を保育園で過ごします。子育て環境として保育園はとても大事だと思いました。だから、いろんな地域の保育園を見に行ったんです」
愛知県東三河地域にはクライミングスポットが点在し、毎週のように足を運んでいました。移住候補地の一つとして保育園を見回る中、めぐり合ったのが豊川市の「恵の実(えのみ)保育園」でした。自然に親しみ、体験、体感を通して「生きる力」を育む園の方針に感銘を受け、「どうしてもここに入れたい」との強い思いが生まれたのです。専門学校卒業を翌春に控えた2017年秋のこと。ここから移住話は一気に加速しました。
「当時、長男は3歳でした。聞けば、次の春に入園できる枠は1つしか残っていないというので、慌てて物件を探したんです」
中古物件を購入してリフォームし、あっという間に引っ越しに至りました。翌春、無事に恵の実保育園の1枠を得て、縁君が入園。現在は次男千然(ちねん)君と三男汎玄(はつね)君が通っています。さらに、移住当初は三重県四日市まで2時間かけて通勤し、大黒柱として生活を支えた枝里さんも、保育園の職員となって働いています。
訪問マッサージ師として独立開業
一方、吉澤さんは豊川市内のクリニックに就職。鍼灸マッサージ師としての人生をスタートさせました。2年間正規職員として勤めた後、勤務日数を減らし、個人で開業する準備に入りました。
「マッサージ師の業界団体にも入り、いろいろ見聞きする中で、訪問マッサージへのニーズは高いと感じました。マッサージ治療を必要とする人は高齢だったり、若くても障がいがあったりして、外出が負担となります。マッサージ師を派遣する会社もありますが、担当者が変わらない安心感から個人業者を希望する人も多いのです。ただ、ほとんど知り合いもいない中、個人でお客さんを得るのは大変です。そこで、在宅介護を専門にするケアマネジャーさんに営業して回りました。ケアマネジャーが取り扱うのは介護保険ですが、要介護者には医療的なマッサージが医療保険の適用となる方も多く、紹介をお願いしました」
2019年、個人事業主として訪問マッサージ「千縁(ちより)」を開業。初めは顧客も少なく、
「暇でランニングばかりしていました」
救ってくれたのは、夫婦で少しずつ広げていった地域とのつながりでした。
「子ども同士が同じ保育園の方がケアマネジャーをされていて、お客さんを紹介してくれました」
また、恵の実保育園を運営する社会福祉法人では児童発達支援事業も行っており、健常児と一緒に過ごすインクルーシブ教育を実践しています。
「通園している障がいのあるお子さんにもマッサージをさせていただいています」
縁が縁を呼び、現在は一日10軒ほどの顧客宅を回る忙しい日々を送っています。
家族で田舎暮らしを満喫
地域コミュニティーにもすんなりと溶け込みました。
「自宅があるのは古くから住んでいる方が多い地域なんですが、とてもいい方ばかり。長男の入学で、いわゆる“小1の壁”に突き当たった時も、近所の方が快く預かってくださって、本当に感謝しています」
と枝里さん。
吉澤さんは地元の消防団員も務めました。
「東京にいる時は消防団という言葉を聞いたことがなかったので、最初に『入ってくれ』と言われた時にはびっくりしました。でも、消防団を通じて知り合いも増えて、やってよかったと思っています」
子どもたちはすっかり田舎っ子。4年生になった縁君、5歳の千然君の遊び場は自宅回りの茂みや川です。クワガタやカブトムシをつかまえたり、道端になっているクワやサクランボをほおばったり。元気いっぱいに走り回っています。
「歩いて2分ほどの川でホタルも見られるんですよ」と、枝里さんも念願の田舎暮らしににっこり。豊かな自然に囲まれながら、電車や高速道路など交通インフラが整った豊川市を、吉澤さんは「買い物に不便するようなこともなく、とても住みやすい」と評します。
移住優遇制度は要チェック
紆余曲折の末、たどり着いた移住先に大満足の吉澤一家ですが、ただ一つ後悔も。
「保育園の件があって急いで家を探したのですが、後から、市外から転居し、家屋を取得した場合に固定資産税分を補助してくれる制度があることを知り、調べてみると購入した家はギリギリその対象地域外だったんです。これから移住しようという人には、事前にちゃんと調べて、支援制度を利用することをおすすめします」
とアドバイスを送りました。
■関連リンク
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鍼灸マッサージ師 吉澤 紘平さん / よしざわ こうへい
1982年東京都府中市生まれ。大学卒業後、出版流通会社に就職。入社10年で脱サラし、鍼灸あん摩マッサージ指圧師の資格取得のため、愛知県稲沢市の専門学校で3年間学ぶ。
2017年愛知県豊川市に移住。クリニック勤務を経て、2019年に訪問マッサージ「千縁(ちより)」を開業。体に不自由のある個人宅を訪問し、医療保険を適用したマッサージを施す。妻、3人の息子との5人家族。