人気の淡路島に移住

田畑さんは兵庫県西宮市出身。損保会社に入社し、福井県、神戸市で勤めた後、17年間東京本社に勤務した。地方にいたときは営業でお客様と接していたが、東京では経営企画や人事など内勤の仕事ばかり。「地方に行って営業の仕事がしたい」と何度も上司に訴えたが聞いてもらえなかった。
「通勤地獄の東京とは正反対のところに行きたい」と、沖縄の石垣島や、新潟県の佐渡にも下見に行ったが、空振りだった。
「どうしても田舎で暮らしたい」としびれを切らし、2019年3月に退社し、老後の生活の手段として中小企業診断士の資格を取るため法政大学の大学院に入った。さらに行政書士の資格も取った。

ふるさと回帰支援センターに行き、移住の候補地を探した。一人暮らしの母親が神戸市で暮らしているため、離島などではいざという時に困ってしまう。そこで、兵庫、鳥取、岡山の範囲で探した。現地ツアーにも参加した。
当初は兵庫県の日本海側を考えていたが、支援センターの職員が「淡路島が人気ですよ」という。そこで2021年2月に南あわじ市に行くと、すぐに住居が見つかった。70平方メートルの平屋をリフォームして2021年9月に移住した。土地は200坪（約600平方メートル）あったので、空き地に66平方メートルの家を増築した。
サウナ室やピザ窯も作って、理想の新居にした。当初は時間があったので家具なども自作した。

自作のピザ窯

仕事を通じて地元の人と交流するのが生きがいに

「私は、いわゆるFIREですよ」と田畑さん。FIREとはFinancial Independence,Retire Earlyの略で「経済的自立」のこと、生活費は資産運用で賄っているので、仕事にあくせくする必要がない。
移住直後は地元の人との会話もなく、DIYのほか、雨の日は読書や映画鑑賞などで家の中でゴソゴソしていたので、不審者のように見られていた。ところが、家の前に、背丈ほどの「たばた行政書士事務所・TBT経営研究所」の看板を立てたら、効果絶大だった。「あんた何する人？」とのぞき込む人もいて、一気につながりができた。

さらに、南あわじ市の商工会に登録して経営相談の仕事を始めた。これが好評で、商工会の職員と地元の中小企業に行って経営相談に乗っている。行政書士としては、相続の相談がメインで、これも次々に相談を受けた。
淡路島の人口は13万人ほどだが、年間1400万人もの観光客が訪れる。そのため、新規にカフェを開いたり、民宿を経営しようとする人も少なくない。そういう人向けの経営相談の仕事も増えている。

もう一つは、町内会の役員になったこと。副会長からの要請で、新参者という懸念もあったが、「頼まれるなら」と引き受け、自ら「広報担当」を買って出て、町内の話題を提供するホームページを作っている。さらにあわじ暮らし総合相談窓口の相談員も務めている。
「人間は一人だと寂しい。適度に会話があり、他人のお役に立てているという気持ちが自己肯定感になっている」と感じている。

自治会役員の皆さんと（左から三人目、グレーのTシャツを着た男性が田畑さん）

砂浜に近く、自然を満喫

田舎暮らしのメリットは、自然を満喫できるところ。東京では足立区や墨田区に住んでいたが、空を見上げることもなく、会社との往復に明け暮れていた。
今の住まいは、淡路島南端にある南あわじ市の阿万吹上町という120戸ほどの集落。市の中心からは車で15分ほど。自宅は吹上浜という鳴門海峡に面した白砂の海岸から800メートルほどのところ。また歩いて10分ほどのところに標高150メートルほどの山がある。鳥の鳴き声や虫の声が聞こえるのも新鮮だった。

「空は広いし、風も感じられて、人間は自然の中が快適だと思う」

と満足そう。

二週間に一度ほど、神戸から母親が来て、一緒に家庭菜園をやっている。トマト、ナス、ブドウ、キウィ、バナナなどを栽培し、「野菜はほとんど自給できている」という。

「採点すれば、ほぼ100点」という移住生活。ただ、散歩は東京にいた時の方が変化を楽しめる分、上だったという。
まだ52歳。健康も維持できている。「移住は楽しんだ人が勝ち。移住前の想定と少し違って、ちょっと忙しいけど、これも楽しい。自分次第で移住生活の楽しみはいくらでも見つかる」と満面の笑みだ。

近くの山から見た夕日

（※このインタビューはふるさと回帰支援センター発行の情報誌「100万人のふるさと」2024冬号掲載の内容をWEB用に一部再構成したものです）