妻と子どもたちの『ふるさと』を残し、次世代へ繋いでいく。
団体役員(NPO法人代表理事・特定地域づくり事業協同組合事務局長) 東 智隆さん
- 移住エリア
- 愛知県→神奈川県→新潟県妙高市
- 移住年
- 2022年
長年、企業の人事や地域復興等に携わってきた東さんは、2022年に奥様の出身地である新潟県妙高市に移住しました。これまでの経験を活かして地域に貢献したいと考えたものの、地元出身者ではないため、ご自身の考えを地域住民に伝えることの難しさを感じたこともあったそうです。
新しい環境に飛び込むためには何が必要なのか。実体験に基づく東さんのアドバイスには、これから新しい一歩を踏み出そうとする人々への力強いエールも込められていました。
目次
妻の地元へIターン移住を決めた理由
これまで企業人事、大学教育、東日本大震災の復興支援活動、まちづくりなど、さまざまな活動に関わってきた東さん。奥様の出身地である新潟県妙高市に、結婚前の20歳のころから長期休みの度に通い続けていました。そんな中、人口減少に伴う労働不足などから妙高市が徐々に衰退しているのを目の当たりにし、自分自身の経験が、この地域の課題解決に活かせるのではないかと考えたそうです。そして2022年、妻や子供たちのふるさとを残したい一心で移住を決意しました。
NPO法人の設立と移住後の活動
東さんは移住前の2021年に、まちの魅力づくり・魅力の見える化を行うため「NPO法人はねうまネットワーク」を設立しました。
「個人で活動する選択肢もあったんですけれども、一人できることは限られています。1つの知識だけでは解決できないことが多々あるので、いろいろな方の知恵を借りながら、活動していくことが良いと思っています。どんなことにも責任を持つことが大切だと考えて、法人格を持とうと決め、『NPO法人はねうまネットワーク』を設立しました。地方・地域・過疎地の役に立ちたいという共通の思いを持ったメンバーと共に活動をしています」
具体的には、ユネスコ世界ジオパーク(※)にも登録されている、糸魚川市の神道山公園の森林保全活動の際に出た間伐材を利用したテントサウナイベントや、ブルーベリー農園の事業継承など様々な活動を展開しています。
ユネスコ世界ジオパーク…地球科学的な遺産を保護・管理し、持続可能な開発を促進することを目的とした国際的なプログラム。
「妙高はねうま複業協同組合」の設立と、今後の課題
東さんの活動を見て、ファンや支援者が次第に増えていきました。「実際に移住してみたい」「妙高市で何か自己実現を果たしたい」という方のために何か支援ができないかと考えた東さんは、生活していく上でポイントとなる『働く』ことに注目。移住者が安心して働くことができ、これまで築いてきた能力・経験を活かせる職場を作るため、「妙高はねうま複業協同組合」を設立することを決意しました。
「妙高はねうま複業協同組合は、妙高市内の10事業者(農業、林業、酒造業、宿泊業、小売業、まちづくり事業等)で組織された組合です。各事業者の仕事は季節ごとに繁忙期が異なり、人手不足が課題となっています。移住者を組合の職員として迎え、要望やスキルに応じて各事業者の仕事とマッチングさせることで、事業者の人手不足を解消し、同時に移住者のキャリア形成の支援を行っています」
妙高はねうま複業協同組合の設立では、課題に直面することも多くあったそう。
「妙高生まれの妙高育ちではないので、自分のイメージや思いやビジョンを伝えるのにすごく時間がかかりました。例えば、『妙高ってすごく魅力的な場所ですよ。その魅力的な場所に人は必ず来てくれますよ。』と言っても、『本当に妙高は魅力的なの?』『本当に人来るの?』と皆さん半信半疑でした」
しかし実際には、2023年に3名、2024年も3名の移住者を職員として迎えることができました。
「NPO法人はねうまネットワークの活動も、妙高はねうま複業協同組合の運営もあくまでも『手段』なんです。何の手段かというと、妙高市の地域文化や伝統産業などを残すこと、さらに言うと日本という国のなかで妙高市の役割を考え、地域が担っていくことです。最終的には子供たちの世代に魅力ある妙高をどういう形で引き継いでいくかが今後の課題です」
捨てる勇気を持つ。強く思い続ければ夢は叶う。
最後に、妙高市への移住や起業を考えている方へメッセージをいただきました。
「移住ってすごくハードルが高いと思うんです。新しい場所に入っていくってとても緊張することですよね。新しい何かを得るために踏み出す勇気。これは比較的ストレス無くできましたが、関東の交友関係や、仕事、年収、『捨てることの勇気』ってなかなか持てなかったんですよ。人って得ることに対してはすごく興味があって前向きですけど、『捨てる』ということがなかなかできない。私もいろいろ取捨選択しながら、『捨てる』ということをしてきました」
新しい環境に飛び込むには、今持っているものを捨てる勇気も必要です。
「起業したい人は、特に妙高市での起業をお勧めします。『やりたい』を実現できる環境があり、やらせてもらえる、応援してくれる人が多いというのが妙高最大の魅力だと思いますね。都心は常に競争心理が働き、費用もかさみがちとなるため、起業リスクが大きくなってしまいますが、妙高市では事業継承や遊休施設の活用などを通して、事業を2倍速で動かすことができました。実際にブルーベリー園の事業継承や、妙高市初となる組合設立などを経験してそう思います」
「自分の『やってみたいという思い』を強く持ち続ければ、夢は実現する。間違いなく」
そう力強く話す東さんの言葉に、勇気づけられる人はたくさんいるのではないでしょうか。
団体役員(NPO法人代表理事・特定地域づくり事業協同組合事務局長) 東 智隆さん / あずま ともたか
愛知県出身。進学と同時に上京。マスコミ、メーカー、IT、法曹関係の多様な人事(人材)業務と並行して大学教育に携わる。2011年東日本大震災の復興支援活動とまちづくりを行った経験から2021年に特定非営利活動法人はねうまネットワークを設立。以降、新潟県の上越地域を中心としたまちづくりを行いながら移住者支援を行なっている。