大好きな山のそばで暮らしながら、子どもたちが自然の中で遊べる場づくりを実現
「NPO法人かぷかぷ山のようちえん」代表理事 保育士、青梅市移住・定住コンシェルジュ 小川 佳那恵さん
- 移住エリア
- 神奈川県→東京都青梅市
- 移住年
- 2015年
東京には大都会もあれば自然あふれる山間部や美しい海に囲まれた離島もあり、鮮やかなグラデーションの中から自分がフィットする場所を選べるのが東京暮らしの魅力といえます。今回ご紹介するのは、都会と田舎、子育てと夢、ぜんぶの「ちょうどいい」を見つけた女性の物語。舞台は東京の西、青梅市です。
目次
山好き夫婦がたどりついた「都会と田舎のちょうどいいところ」
「私は大学で探検部、夫は山岳部に入っていたほど、2人とも山が大好き。いつか自然の中で暮らしたいという思いがずっとありました」
そう話すのは、2015年に青梅市に移住した小川佳那恵さん。もともと京都の街中で生まれ育ちましたが、幼い頃に父の実家があった高知県の山奥によく遊びに行っていたといいます。「自然の中で遊ぶって楽しい!」という原体験から、大学時代は探検部に入部して山歩きや洞窟探検などのアウトドアにどっぷり浸かる日々。東京の大手企業に就職し、結婚して横浜に暮らすようになってからも、近隣の山によく出かけていたといいます。
「そんななか不妊治療をすることになって、治療を続けるうちに『このまま子どもができなかったらどうしよう…』という思いがよぎるようになりました。これからのことを真剣に考えたとき『もしも授からなかったとしても、子どもたちと一緒に自然の中で遊びたい』という気持ちが強くなっていったんです。それで30歳のときに思い切って会社を辞め、保育士として働くことにしました」
「子どもたちが自然の中で遊べる場をつくる」という目標に向かって歩み始めた同じ頃、双子を妊娠したことが判明。同時にご主人が森林に関わる仕事に転職することになり、一家で職場のある東京都青梅市へ転居することになりました。青梅は都心から電車で行けるアクセスの良さがありながら、古くから霊峰として親しまれる御岳山や多摩川など、豊かな自然環境に恵まれたエリア。山歩きで何度か来たことのあったこの場所が、小川さんにとっての新しい“ホーム”になったのです。
新しいことを受け入れてくれる青梅の柔軟な空気
青梅に引っ越した頃は双子の妊娠・出産がとにかく大変で、移住の準備は何もできなかったという小川さんですが、いざ暮らし始めた青梅の印象は「ちょうどいい具合のところ」。
「東京のさっぱりした人間関係と、田舎っぽい優しさの両方があるなと感じました。これまで住んでいた街では双子を連れていてもまず話しかけられることはないんですが、青梅だとショッピングモールを歩いているだけで10人ぐらいに話しかけられます(笑)。そういうのがすごくいいな、人があったかいなって思いますね。市街地に行けば必要なものは何でも揃うので不便はないですし、自然はすぐ近くにある。いろいろな森、いろいろな川があって、行く場所によってさまざまな楽しみ方ができるのがすごくいいなって思います」
もうひとつ、青梅が素敵なのは「新しいことを受け入れる空気」だと小川さん。移住者が新しいことをしようとすると、地元の人が「それ面白いね!」とノッてくれるんだとか。小川さん自身も、青梅でチャレンジを始めた一人。出産してまもなく、0歳児から自然の中で子供たちが遊ぶ場「NPOかぷかぷ山のようちえん」をスタートしました。親子で渓谷をおさんぽしたり、滝へ探検に行ったり、火をおこして焼き芋をつくったり、多摩エリアに広がる大自然の中で0歳児から親子で楽しめる自然体験イベントを行っています。
「NPOの活動は青梅に引っ越す前に1、2回ほどイベントを開いた後、妊娠してお休みすることになったんです。それで子どもを出産したときに、やっぱりこの場所でやりたい!と思って、活動を再開することにしました。都会の遊び場や室内だと子ども以外の周りのことに気を遣うことが多いですが、自然の中なら子どもがどんなに走り回っても誰も何も言わないし、周りの目を気にしなくていい。私自身が双子の子育てで大変なときに、青梅の自然に助けられたところがありますね」
「楽しい!」を引き出す山の力
慣れない土地で、一人で始めたNPO活動。でもイベントを続けるうちに、一人また一人と手伝ってくれる人が現れてきたと小川さんは言います。現在は自然体験イベントのほかに、会員制のクラブ活動や自治体との共同事業なども行っており、今では年間のべ2500人が参加する活動になっています。こんなにたくさんのイベントを一人で企画しているんですか?と聞くと「実をいうと私自身はアイデアが出なくて」と笑います。
「『楽しいをつくる力は山で育つ』というコンセプトを大切にしていて、関わってくれる人が得意なことから企画を考えています。大人になると『楽しい』をベースに何かをつくることってなかなかないじゃないですか。でも、その人が楽しいと思えることを企画にしたほうが、周りも楽しいはず。一人ひとりの『楽しい』にみんなを巻き込む場づくりも目標のひとつです。先日は、自然の中で遊んでいた子が『ここで映画を観たい!』と言い出して、実際に映画観賞会を開いたんですよ。キャンプがしたいという子がいたら、じゃあキャンプやってみようか!というように、珠数つなぎに展開していく面白さがありますね」
自然の近くで生活する大変さも…
念願の自然に囲まれた場所で、夢だったNPO活動に邁進する小川さん。さらに2025年4月からは認可外保育施設を開園予定。0歳児から自然と親しめる環境学習のための私立公園をつくる構想も進んでいるそう。「遊ばせてもらうだけじゃなくて、青梅の自然を守る活動にも寄与していきたい。地元には、子どもが遊びに来るから森を整備しようというおじいちゃんおばあちゃんもいるので、みんなで森を守ろうというムーブメントをおこしていけたら」と夢はますます広がっている様子。
最後に、青梅市の移住・定住コンシェルジュとして移住相談も受け付けている小川さんにメッセージをいただきました。
「青梅はやりたいことがある人を、みんなが応援している雰囲気があるので、田舎暮らしの入門編としてすごくよい場所じゃないでしょうか。ただ、自然が近いということは良い面もあれば大変な面もある、ということは考えておいたほうがいいかもしれません。例えば私は家族で古民家に住んでいるんですが、野生動物が家の中に入って食品をかじられてしまうんです。多いのはネズミたち。アライグマが入ったこともあります。古い家だと侵入を防ぎきれないのでダメージが大きくて。これはもう共生するしかないのかなと思いますね」
「NPO法人かぷかぷ山のようちえん」代表理事 保育士、青梅市移住・定住コンシェルジュ 小川 佳那恵さん / おがわ かなえ
京都市出身。神戸大学農学部で学ぶかたわら、探検部で山歩きや洞窟探検などのアウトドア活動にいそしむ。卒業後は株式会社味の素に入社し、IT部門で8年間勤務した後、「自然の中で子供たちと遊ぶ場づくりをしたい」という夢を叶えるため保育士の道へ。
ご主人の転職に伴い2015年に青梅市へ転居し、双子を出産。直後にNPO法人かぷかぷ山のようちえんを設立。現在は3人の子育てをしながら、NPO代表や青梅の移住・定住コンシェルジュとして活動中。
■かぷかぷ山のようちえん ウェブサイト
https://www.capucapu-nature-school.com/