大自然のテントサウナで心の芯から温めたい!移住と創業、そして結婚を同時に実現

出張型テントサウナ経営、古民家宿の管理運営 山本 颯太さん
- 移住エリア
- 愛知県内→愛知県新城市
- 移住年
- 2023年
大自然に囲まれた鳳来寺山のふもと。奥の黒いテントがテントサウナ
市の8割が豊かな緑に覆われた新城市。切り立つ岩肌が美しい鳳来寺山のふもとで、出張型のテントサウナ事業を始めたのは山本颯太さんです。
会社員時代に出会ったサウナに魅了され、仕事にしたいと決意。退職、移住、創業に加えて、結婚も1年間で成し遂げてしまったという行動力の持ち主ですが、アクティブな行動の裏には、人とのつながり、一人ひとりの生き方を大切にする姿勢がありました。リフレッシュと同時に、心の豊かさももたらすテントサウナを通じ、過疎化が進む山間地域で新たな人の交流を生むことを目指しています。
目次
生まれも育ちも三河地方
山本さんが生まれ育ったのは、新城市の隣に位置する岡崎市の街中。アウトドアが好きな家庭で、よくキャンプやバーベキューをしていたそうです。名古屋市内の大学に進学後、豊橋市の都市ガス会社に就職します。
入社後2年は一般家庭向けの営業を担当します。色々な人と出会い、関係を築くことが得意な山本さんには、ぴったりな仕事でした。忙しい毎日を送る中、ある日先輩が連れて行ってくれたのがサウナ。体の疲れが取れ、すっきりとリフレッシュできる気持ち良さを初めて知りました。この日を境に、山本さんとサウナの歩みが始まります。
各地のサウナを訪問 自分でテントサウナを購入し副業としてスタート
サウナに魅了された山本さんは、休みの度に各地のサウナに通います。特に惹かれたのが、静岡県にある川沿いのテントサウナ施設でした。テント内を薪ストーブで温め、水風呂替わりに、すぐ側にある川で体を冷やします。自然のものしか使っていないのに、じんわりと心の底から温まる感覚はお店の室内サウナでは得られないものでした。テントサウナでは男女とも水着を着て入りますが、初対面の人とも「どこから来たの?」など会話が弾んだことも心に残りました。感動した山本さんは、何度も通い詰めるうち、「自分もテントサウナを仕事にできないかな?」と思い始めます。調べると、必要なものは、テントとストーブ、サウナストーンと呼ばれる石など、20万円ほどで調達できそうでした。
ただ、仲良くなっていた施設のオーナーに相談すると、管理や集客の大変さを理由に反対されます。一度は思い止まったものの、しばらく経ってもテントサウナへの思いは消えません。
「それまでの自分は、周りの意見を聞いたら、それに沿って行動するタイプだったんです。でもテントサウナについては、止められてもやりたい、という思いが途切れなかった。本当にやりたいことを見極めるきっかけにもなりました」
心の声に従うように、テントサウナを購入。実家の庭に設置したり、知人と川沿いに設置したりして楽しむうち、オンラインサロンで知り合った人から名古屋市内での設置依頼を受けることになりました。
「テントを片付けた後、ありがとう、と言われた体験が本当に嬉しくて」
副業として出張テントサウナ事業を始めました。

2024年、新城市のバーベキュー施設での出張テントサウナで、コシチャイムと呼ばれるフランスの伝統楽器を鳴らし、利用客をリラックスさせる山本さん(山本さん提供)
一方、その頃、会社では営業職を離れて人事部の採用担当になり、デスクワークも多くなっていました。大学生の採用に携わるなど、やりがいもありましたが、やはり心を惹かれるのは、お客さんに価値ある物を直接届け、感謝してもらえる仕事。それが感じられるのは副業の出張テントサウナの仕事になっていました。
旅行の翌日から始まった激動の1年
2023年1月、奈良県の山里にある古民家宿への旅行が、今後を決める大きなターニングポイントとなります。自然との調和を大切にするこの宿のサウナでは、早朝から薪をくべてサウナを温め、お客さんをもてなします。火入れもガスバーナーではなくマッチを使い、地元の人が持ってきてくれた薪を大切に使う姿勢を見ながら、山本さんは、サウナと向き合う時の心の大切さに気付きます。
「それまでは、汗をかいたり、川で冷やしたりと、体で感じる気持ち良さしか知らなかったけれど、サウナを通じて得られる心の豊かさに気づいたんです」
山本さんの中で、山里に移住し、人生をかけてアウトドアサウナに向き合いたいという思いが膨らんでいきます。
旅行から戻った翌日に向かったのは、新城市役所の産業政策課でした。実家のある岡崎市や当時住んでいた豊橋市と隣接しながらも、街中とはかけはなれた大自然が広がる場所です。
「山間地域でテントサウナをしてみたいと思っているんですが…」市職員に打ち明けたところ、ロケーション、商工会、不動産屋や薪ストーブの製作所など創業に役立ちそうな様々な場所を次々に紹介してもらえ、思いがけず夜まで市内を駆け回るような一日となりました。
その後、数か月は週末ごとに新城市に通う生活が続きます。年代も近く、自身も新城市に移住した経験を持つ市職員が、森を歩くイベントや町の祭りに連れて行ってくれたり、古民家を見せてくれたりするなど、移住に向けて心強いサポーターとなってくれました。ただ、その市職員からは「もちろん山本さんが新城市に移住してくれたら嬉しいけれど、焦らず考えて」との助言も受けます。

市の8割が緑に覆われ、四季折々の自然豊かな景色が楽しめる新城市
しかし、山本さんの勢いは止まりません。3月には、愛知県の三河山間地域で起業に挑戦する人を支援する県の事業「あいちの山里アントレワーク実践者」の発表会を見学。山間地域で新しいことに挑戦する人の存在は心強く、「わくわく感と安心感をもらった」と言います。
移住に向けて大きく胸を膨らませる中、当時付き合っていた方に「なんで週末、新城市にばかり行っているの?」と問い詰められます。そこで初めて、起業や移住を考えていることを打ち明けた山本さん。話す中で、「この人と一緒にいたい」という思いを確信し、4月に思いきってプロポーズします。その方はプロポーズを承諾。起業についても、「私が支えるよ」と力強い言葉をくれました。
伴侶の理解も得た山本さんは、勤めていた会社を6月に退職。9月には、市から紹介してもらった築50年ほどのリフォーム済みの借家に一足先に1人で入居します。しばらくは市の地域調査やキャンプ場でのアルバイトをし、その土地柄と、アウトドアに関する仕事への理解を深めていきました。その後、奥さんも新城市に転職が決まり、年末に合流。新城市での新婚生活がスタートしました。
心動かされる奈良県の古民家宿のサウナを訪れてから、わずか1年しか経っていませんでした。
移住は一歩一歩、焦らず自分のペースで
人生の転機となる、結婚、退職や移住など様々な変化が矢継ぎ早に起こった1年を振り返り、山本さんは「同時期に、大きな変化を重ねない方がいいです。やはり心理的な負担も多かったので」と苦笑いし、「焦らず、一歩一歩、自分に合ったペースで準備を進めることが大切だと思います」と話します。
また、自身の移住体験をもとに、「何度も通い、その土地柄とそこに住む人々について知る中で、移住してきた先輩や、5~10年後に自分がこうなりたいと思えるロールモデルとなる人を見つけられると心強いです」と教えてくれました。

薪ストーブを使って温めるテントサウナの内部
古民家宿の運営を担当しつつ、出張テントサウナで山間地域の活性化を目指す
2024年からは、古民家の宿2棟の運営も担当しています。もともとは市内の工務店がリフォームし、試験的に運用していた宿でしたが、市職員の紹介で山本さんが庭にテントサウナを設置することを提案。すると、テントサウナだけではなく、工務店と一緒に宿を運用しようという話が進み、予約や清掃など宿のサービス面を担当することになりました。秋には、地域の仲間と4人で労働者協同組合も結成。宿の運営を担当しながら、市内の空き家活用案も練っています。
山本さんの人生に欠かせない存在となったテントサウナは、宿泊客のリクエストに応じて宿の庭に設置しているほか、各地での出張テントサウナも続けています。さらに、今年度、愛知県の支援事業「あいちの山里アントレワーク」の実践者にも選ばれました。
「アウトドアで入るサウナの魅力は体のリフレッシュ感だけではありません。自然と向き合い、心の芯から温まることで、自らを見つめ、自身を深く知るきっかけにもできるんです」
と力を込める山本さん。会社員時代の経験を活かし、今後は企業研修の提案など、平日に新城市を訪れる人が増えるような取り組みも考えているそうです。自然に囲まれ、新たな挑戦で忙しい日々が続きます。

山本さんが運営を担当する古民家宿「Community&Stay古民家SO」。薪ストーブの薪は裏山で採れたスギやヒノキを使う。ほのかな香りとともに煙が立ち上る
■関連リンク
すぐ田舎すぐ都会(愛知県新城市移住ポータルサイト)

出張型テントサウナ経営、古民家宿の管理運営 山本 颯太さん / やまもと そうた
1994年愛知県岡崎市生まれ。名古屋市内の大学を卒業後、豊橋市の都市ガス会社に就職。在職中に会社の先輩と一緒に行ったサウナに魅了され、山間地域での出張テントサウナ事業の創業を決意。5年間勤めた会社を退職し、2023年、妻と新城市に移住。
出張テントサウナと並行し、YURAMEKI労働者協同組合の代表理事として、古民家宿で顧客対応などサービス業務も担当する。三河山間地域での起業を支援する愛知県の事業「あいちの山里アントレワーク実践者」にも選ばれている。