家族の未来を変えた移住。高島市・朽木で、未来を生みだす暮らしを。

民宿『古民家COCCO小入谷』女将、自伐型林業 廣清 乙葉さん
- 移住エリア
- 奈良県→滋賀県高島市
- 移住年
- 2017年
持ち前の行動力で地域の人とつながり、滋賀県高島市に移住した廣清 乙葉さん。現在は古民家民宿を経営するだけでなく、ご主人の林業の手伝いにも携わっているスーパーレディ!地域の課題にも真剣に取り組む廣清さんの移住ストーリーを追います。
目次
こんな暮らしをしたいと思った瞬間から時が動き始めた
私たち夫婦は奈良県生駒市で暮らしながら大阪で共働きをしていました。朝早く娘を保育園に預け、小学生の息子は学童で夜遅くまで過ごす…。仕事にも追われ、家族でゆっくり過ごす時間がほとんどなく、心にも余裕がありませんでした。
「子どもたちを、もっと自然の中でのびのびと育てたい」
「自分たちの暮らしの中で、何かを生み出したい」
そんな思いが少しずつ募り、北海道や長野などの移住先を模索し始めました。
そんな中、SNSで滋賀県高島市朽木(くつき)エリアの暮らしを知りました。山深い土地で、地元の方々が知恵を受け継ぎながら生きる姿に心を打たれました。
「こんな暮らしがしたい」
そう思ったとき、私たちの気持ちはすでに決まっていました。

絶景スポットとして知られる小入谷の雲海
地域との交流を通じて具体的に暮らしをイメージする
まずは市役所に相談しましたが、空き家情報は少なく、具体的な進展は難しいと感じました。そこで、自分たちで情報を集めることにしました。
もともと子どもと一緒にお米作りを学びたいと思っていたので、高島市の鵜川地区で自然農法を実践するグループに参加。一年を通じて田んぼに通い、地域の方と交流しながら、移住後の暮らしを具体的に描いていきました。
この行動力のおかげで「面白い家族だね!」と興味を持ってくれる人が増え、地域とのつながりが生まれました。この時のご縁は、移住後の生活にも大きく影響しました。こうして、私たちは人のつながりを作り、お米づくりについて学びました。
移住を決意したのは、息子が小学5年生のとき。家が決まる前でした。「1年間だけでも朽木西小学校に通わせたい」と考え、急いで手続きを進めました。実は、家が決まる前から「2017年4月1日に引っ越す」と宣言していました。退職し、引っ越しトラックを予約し、周囲にも伝えていました。
「家は決まったの?」
「いいえ、今探しているところです!」
と答えるたびに笑われましたが、そんな中でも行動を続けました。
そして、朽木小入谷で民宿を経営されていた『はるやゲストハウス』のことをSNSで知り、訪問することに。そこで市営住宅の空き情報を知り、すぐに申し込みました。
こうして、息子の転校が決まり、夫の退職日も決まり、移住への準備が一気に進みました。

高島市にあるメタセコイア並木
家族がそれぞれの形で充実した日々を送る
移住から8年が経過し、私たち家族はそれぞれの形で充実した日々を送っています。
夫は林業の仕事をしており、規則正しい生活ができるようになりました。以前は長時間労働が続き、家族と過ごす時間が限られていましたが、今は毎日夕食を家族で囲むことができています。山の中での仕事は体力的に大変なこともありますが、自分の手で自然と向き合いながら働く喜びを感じているようです。
私は2021年から民宿『古民家COCCO小入谷』を運営し、多くの旅人と出会う日々を楽しんでいます。宿泊客の多くは鯖街道のハイキングや静かな環境での森林浴など、自然を求めています。
都会にいたころには想像もできなかった、人との深いつながりが生まれています。
息子は高校進学のため奈良に戻りましたが、「朽木での暮らしは最高だった」と振り返ります。中学までの短い期間でしたが、自然の中で遊び、地域の方々と関わることで貴重な経験を積むことができました。
娘は朽木西小学校でのびのびと育ち、少人数だからこそできる経験をたくさん積んできました。運動会や文化祭、地域のお祭りでは、企画から運営まで自分たちの力で取り組み、大きな自信をつけています。

左から娘さん、ご主人、息子さん
地域課題に取り組み、移住者を迎えられる環境づくり
移住して気づいたのは、「びわ湖源流域の森林環境の悪化」「高齢化と人口減少による地域コミュニティの維持の難しさ」といった、地域が抱える課題です。特に、宿を営む中で、森林環境の美しさに惹かれる人が多い一方、その環境が荒れていることに課題を感じました。そこで夫と相談し、「自伐型林業(※)」という小規模で環境に配慮した林業に可能性を見出し、移住者を迎えられるようになりたいと活動を始めました。
現在は高島市と協働で取り組み、地域の認知度を上げるための活動を進めています。また、移住を考える人たちがスムーズに地域に馴染めるようなサポート体制も作っていきたいと考えています。
自伐型林業(じばつがたりんぎょう)…森林所有者から森林整備を請け負い、少人数で伐採から搬出までを行う林業。持続可能な森林経営を目指し、環境に配慮した方法で行われる。

シャベルカーの他、チェーンソーやトラクターも使いこなす廣清さん
人と出会い、暮らしを肌で感じてみる
現地に行き、人と出会い、暮らしを肌で感じることが大切です。そして、思い描いた通りの生活になるとは限りません。ですが、その違いこそが移住の醍醐味。すべてが新しい出会いだと思い、前向きに向き合ってほしいです。私たちは計画性もないまま飛び込みましたが、移住したことに後悔はありません。移住を考えたら、まずは行動してみてはいかがでしょうか。
かけがえのない人生、かけがえのない子育て。移住は素晴らしい経験を与えてくれることは間違いありません。今、「こんな暮らしがしたい。こんな風に生きていきたい」など思いのある方にはぜひチャレンジしていただきたいです。

収穫した野菜

民宿『古民家COCCO小入谷』女将、自伐型林業 廣清 乙葉さん / ひろせい くによ
1975年奈良県生駒市生まれ。大学卒業後、大阪の法律事務所に事務職員として勤務。結婚、出産を経て2児の母となる。
2017年、家族4人で山暮らしを求め、滋賀県高島市朽木へ移住。地域に根差した仕事に従事したいと考え、2021年に地元の古民家を借り受け、1日1組限定の民宿『古民家COCCO小入谷』を開業。
民宿の宿泊客との交流を通して地域の豊かな自然環境に改めて魅了され、現在は環境に配慮した小規模林業である「自伐型林業」を目指し、夫や市内の仲間とともに活動中。
■Webサイト
古民家COCCO小入谷