イギリスから東栄町へ家族で移住。古民家ゲストハウスで山里の魅力を海外へ発信

古民家ゲストハウス「蔵リトリートDAIKOKUTEN」運営 ブーススペイン 真理さん
- 移住エリア
- イギリス→愛知県東栄町
- 移住年
- 2023年
写真はブーススペイン真理さんと夫のシェムさん。奥にあるのが蔵を改修したゲストハウス
イギリスに通算13年間住み、海外経験が豊富なブーススペイン真理さんがイギリス人の伴侶とともに移住先に選んだのは、愛知県の北東部にある東栄町でした。川の水は透き通り、初夏の夜にはホタルが舞い、満天の美しい星空が広がる山里。人々は、春にはお茶を摘み、夏には川で鮎を釣り、秋には田んぼ仕事に精を出すなど、自然とともに暮らしています。移住のきっかけは、イギリスで暮らしていた時に直面したコロナ禍でした。また、海外生活が長くなる中で、2人の娘たちに日本の文化や日本語を学んでほしいという思いが募っていたこともあり、日本の山間地への移住を決意します。
海外からインターネットで情報を集め、最終的には自分たちで現地を訪れてたどり着いたのが東栄町でした。現在は、蔵を改装したゲストハウスを運営し、美しい日本の山里の魅力を海外に向けて発信しています。
目次
コロナ禍がきっかけで考え始めた移住 情報収集にはネットを駆使
イギリス人のシェムさんと結婚後、イギリスで暮らしていた真理さんは2019年末、コロナ禍に直面します。ロックダウンでスーパーマーケットからは卵やパンが一瞬で消え、自給自足の生活の大切さを肌で感じたと言います。また、イギリスで育つ2人の娘に、桜の花開くシーズンの入学式を体験させたいと思っていたタイミングも重なり、「1年でもいいから、日本で生活してみよう」と思い立ちます。広告代理店で働いていた夫のシェムさんも、日本の山間部のドキュメンタリー番組を見たことがあり、「ジャパニーズマウンテンに住むのが夢だったんだよ!」と同意してくれました。
実家が知多市にある真理さんは、移住するなら東海地方がいいかなと思っていました。実家は街中だったため、より自給自足の生活ができるような自然あふれる場所を求めて情報を集め始めます。その中で見つけたサイトが、ふるさと回帰支援センターのホームページでした。移住相談員とのオンライン面談は、「移住先は、山沿いが良いか、海の近くが良いか」を決めることから始まりました。当時、暮らしていたのが、ドーバー海峡に近いラムズゲートという港町で「次は山間部に住んでみたいな」と思ったことに加え、海の近くは津波への不安もあったため、山沿いを選択します。相談員に紹介してもらった移住者向けサイトを見ながら、具体的な住む場所へのイメージを固めていった真理さん。気になった古民家を知多市に住むお姉さんに見に行ってもらったこともありました。
帰国後に実際に足を運び、町や人々の雰囲気を知ってから決めた移住先
2022年春、まだ移住先は決まっていない段階でしたが、真理さんと子ども2人は一足先に帰国。リモートワークできる仕事で起業したシェムさんも8月に合流し、知多市にある真理さんの実家に住みながら、移住先を探します。様々な場所を訪れる中、出会ったのが和歌山県にある古民家ゲストハウスでした。自然あふれる山里での民泊に魅力を感じ、自給自足の生活へのイメージを固めていきます。
冬には、田舎暮らしの良さを知ってもらうために東栄町へ移住した人が企画した1泊2日のイベントに参加します。このイベントで、まち歩きをしながら、住む場所や仕事について、地域住民や役場の職員、不動産会社に直接相談することができました。東栄町を訪れるのは初めてでしたが、学校や病院など必要な施設がまとまった町の様子とともに、人々が移住者を歓迎してくれるウェルカムなムードに心打たれ、2人は移住先を東栄町に決めます。

東栄町について、真理さんは「コンパクトシティ」と呼ぶ。小さくても、学校や病院など必要な施設が集まっているところに魅力を感じたそう
翌年3月にまずは町営住宅に移り住み、その後、冬に参加したイベントで知り合った不動産会社から、現在住む物件を紹介してもらいました。裏山を含め、約6000坪の土地を購入。築130年の2階建て古民家に加え、畑や蔵もついていました。片付けなどを自分たちでやることを条件に、値引き交渉にも応じてもらったそうです。蔵を見て、里山の魅力を存分に活かしたゲストハウスをしたいというアイデアが浮かんだ夫妻は、約150万円かけて蔵を改装し、民泊の許可を取り、10月の真理さんの誕生日にゲストハウス「蔵リトリートDAIKOKUTEN」をスタートさせました。

蔵を改修したゲストハウスの内部。インバウンドの集客も見込むほか、使っていない時は英会話教室としても利用している
たくさんの体験ができる教育環境にも満足
真理さん夫妻は日本の教育環境の良さも感じているそうです。毎朝、15分ほどかけて、国道へつながる林道を下り、小学3年生の長女を通学バスに乗せた後、次女を車で5分ほどの場所にある保育園まで送ります。日中はゲストハウスの仕事をし、夕方にはバス停と保育園まで子どもたちをお迎えに行きます。高校卒業後にイギリスへ留学した経験がある真理さんは、「イギリスは対話重視型のインタラクティブな教育であると感じていましたが、日本は運動会や学芸会、校外学習など、子どもたちの体験教育が充実していると感じています」と話してくれました。
町内には中学校までしかないため、「高校進学時には海外に留学しても良いと思います」と話す夫妻は子どもたちの進路についてもグローバルに考えています。

2人の子どもたちとおせち作りをする真理さん。子どもたちに生活に根付く日本文化を伝えていきたいと思っている
人の優しさに囲まれ、豊かな時間と生きがいを感じられる毎日
「東栄町は人が優しいよ、と言われていたけれど、本当にそうでした」と真理さんが教えてくれました。日本語が話せないシェムさんにも、隣家の方が茶畑の手入れの仕方などを手取り足取り、快く教えてくれているそうです。シェムさんは「皆さんにも夢を追ってほしいです。私は夢を追ったからこそ、ここで生きがいを見つけ、人間らしく生きられています。サポートしてくれる人も必ずいることを伝えたいです」と力を込めて話します。

母屋の前で休憩する真理さんとシェムさん
真理さん夫婦の強みは英語ができること。Instagramなどインターネットでの発信を通じ、インバウンドの集客に力を入れており、これまでにイスラエルやイギリスからの旅行者を受け入れてきました。さらに「蔵」では、英語教室も開校。子どもからお年寄りまで幅広い世代の町民に英語を教えています。今後は、留学出発前や海外移住を前に、シェムさんと真理さんと一緒に過ごし、英語での生活を体験してもらう「英語漬けリトリート」も企画しています。山間地と海外を結ぶ様々な活動を企画する真理さんは、三河の山間地域で創業する人を支援する県の「あいちの山里アントレワーク実践者」にも選ばれています。
「日本の魅力は京都や東京などの観光地だけではありません。美しい自然に囲まれた東栄町でじっくり長期間滞在することで得られる心の豊かさを伝えたいです」と話す真理さん。その語り口には、自然と向き合い、ゆったりとした時間の中で得られる豊かな心が表れているようでした。

裏山に作ったデッキからは奥三河の山々が望める。日本の山里で、自然に囲まれた豊かな時間を宿泊者に体験してもらいたいと願う
■関連リンク
東栄町移住定住促進情報サイト「居職充」

古民家ゲストハウス「蔵リトリートDAIKOKUTEN」運営 ブーススペイン 真理さん / まり
1978年名古屋市生まれ。小学生の頃から知多市に住む。高校卒業後、イギリスへ留学し、演劇を学び帰国。名古屋市で働いた後、中国・大連で2年間働く。帰国後、東京で翻訳業などに従事しながら、イギリス人のシェムさんと結婚。2013年に渡英後、2女に恵まれる。
2022年に一家で帰国し、2023年に東栄町へ移住。古民家の蔵を改装したホームステイ型ゲストハウス「蔵リトリートDAIKOKUTEN」を経営。
■「蔵リトリートDAIKOKUTEN」Instagram
https://www.instagram.com/p/DDW4KLpOY2W/
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