地区の魅力を活かして空き家を利用したコワーキングスペースを開設
会社員(元・金沢市地域おこし協力隊) 松田 優樹さん
- 移住エリア
- 大阪府→石川県金沢市
- 移住年
- 2018年
目次
古き良き日本の暮らし方を求めて
大学で「循環型社会」(資源を効率的に利用すると共に循環的な利用を行い、持続可能な形で循環させながら利用していく社会)をテーマにしたゼミに在籍していたこともあり、循環型社会や持続可能な暮らし方に興味があったという松田さん。さまざまな分野で「循環型社会」が注目されていますが、戦前までの日本人の暮らし方は循環型社会そのものと思ったそうです。
「遠くにある新しいものを探すのではなく、一度原点に立ち返る必要があるのでは、と感じていました」
松田さんは当時大阪で暮らしていましたが、古き良き日本の暮らし方を実践したいと思い、「大阪ふるさと暮らし情報センター」で情報収集をしたほかセミナーに参加して移住について真剣に考えるようになりました。
母方の実家が石川県小松市にあり、子どもの頃よく過ごした思い出もあったため、石川を候補地にしました。しかし、奥様や子どもは田舎暮らしの経験がなく田舎にいきなり移住するのは厳しいと思い、都市と田舎のバランスの取れた三谷地区で、金沢市地域おこし協力隊に応募することにしました。
「初めて三谷地区に訪れた時は、金沢市内から山の方に入っていくのでドキドキしました。車で20分ぐらいですが、すごく長く感じました。風景はとても綺麗で、紹介してもらった空き家も『何とか暮らしていけそう』という感じでした」
時間をかけて地域に溶け込んでいく中で気づいた課題
「協力隊としてのミッションは、具体的にはありませんでした(笑)。何か具体的なテーマがあれば良かったのですが、それを見つけるところからが仕事でした」
三谷公民館に勤務することになりましたが、最初は戸惑ったそうです。市役所の担当の方からは「焦らず1年間は地域に溶け込むことを大切に」とアドバイスされました。
そこで松田さんは三谷地区をくまなく案内してもらい住民の方と話したり、地域の行事や祭りの手伝いをしたりして「自分のことを知ってもらう」「仲間として認めてもらう」ことに時間を割きました。
「中山間地域はどこも同じかもしれませんが、暮らしてわかったのは人口の減少と少子高齢化ということでした。自分の子どもは小学生ですが、同級生は3人だけです」
松田さんが大きなテーマにしたのは「地区の人口を維持すること」でした。三谷地区は、幹線道路が整備されており金沢市の中心部までは車で20分ほど。今も美しい里山の風景が残っています。街暮らしの便利さを諦めることなく、里山での暮らしが出来る三谷地区の強みに気が付いたことで、協力隊としての活動もブレイクスルーできました。
「地区の人口維持」のため移住促進をスタート!
三谷地区と言っても、金沢市民ですら知っている人が少ない、と語る松田さん。魅力をPRする必要があると同時に、受け皿についても整備する必要があると考えました。
これまでの三谷地区は、移住者を積極的に受け入れてこなかったこともあり、移住希望者向けのPRツールがありませんでした。そこで自身で取材・編集・デザインをして作成したのが、冊子『金沢×里山 みたに』です。『金沢×里山 みたに』は、ありのままの三谷地区を紹介することを意識して編集しました。そういった情報が移住希望者にとって一番必要であることは、松田さん自身の経験で感じていたからです。
冊子には金沢市の各エリア紹介や地域の文化や歴史、小学校や保育所、市街やスーパーマーケットが近隣にどれくらいあって時間はどれほどかかるのか、地域の方々へのインタビューなど暮らしの情報が多岐に渡って紹介されています。また、協力隊の移住生活や自分自身が感じた地域の難点と利点などの情報も掲載されています。これは移住経験者である松田さんだからこそ作れたパンフレットであり、協力隊として過ごした2年間の軌跡とも言えます。
「『金沢×里山 みたに』は石川県の移住セミナーなどで使われることになったので、一人でも多くの人に三谷地区の魅力を知ってもらいたいと願っています」
松田さんが次に取り組んだことは、移住希望者の受け皿となる空き家をリスト化するための調査でした。結果的に60軒もの空き家があることがわかり、家主さんの協力を得てまずは数軒の賃貸物件を確保することができました。
「新聞で活動が紹介されたこともあり、この物件への問い合わせは多く、想像を遥かに上回る反響でした」
その結果2組の移住者が入居することになり、活動の成果が見えて自信にも繋がりました。
コワーキングスペース「里山オフィス」の開設へ
地域おこし協力隊3期目の時に行ったのが、空き家を有効活用したコワーキングスペース「里山オフィス」の開設でした。移住の先進地域としても知られる、町全体をサテライトオフィス化した徳島県の神山町をヒントにしたそうです。通信環境も整っているので、のんびりとした環境で仕事や勉強、趣味などに利用できます。
「今は、パソコンと通信環境さえあればどこでも仕事ができます。今までは仕事を辞めて移住するのが当たり前でしたが、これからは仕事を続けながら田舎暮らしができる時代です。『里山オフィス』がその一翼を担えたらうれしいです」
コロナ禍により、暮らしは大きく変わりました。当たり前のことが当たり前でなくなった不都合さはありますが、「田舎への移住」という点では推進力になる予感がしている、と松田さんは語ります。
1年目は焦らず、2年目に種を撒き、3年目に刈り取る
最後に、移住と地域おこし協力隊を目指している方にアドバイスをいただきました。
「協力隊員に求められる活動内容は、受け入れ先によって全然違います。私のようにミッションが明確になっていない自治体もあるでしょう。そういう場合、とにかく1年目は焦らないということです。私自身も、焦らなくていいとアドバイスを受けましたが、『何かしなくちゃ』と焦り、いくつも企画を考えてはボツになったものです。大切なのは、まず地域に受け入れてもらうことです。そのためには、自分を知ってもらい信頼してもらうことが重要です。『金沢×里山 みたに』を発行できたのも、『里山オフィス』を開設できたのも、1年目に多くの人とコミュニケーションをとり、地域に受け入れてもらえたからです。
1年目は焦らず、2年目に種を撒いて、3年目に刈り取る。それぐらいのイメージでいいのではないでしょうか」
2021年3月で任期を終えた松田さんは、引き続き三谷地区の古民家で家族と一緒に暮らしています。金沢市内の民間企業への就職が決まっているので、これまでと同じ活動はできませんが、地域のイベントへの参加を通して、三谷地区の振興に携わっていきたいと考えているそうです。
会社員(元・金沢市地域おこし協力隊) 松田 優樹さん / まつだ ゆうき
大阪府東大阪市出身。兵庫県の大学院卒業後、通関関係の会社に就職。里山での暮らしに惹かれ、2018年3月、金沢・三谷地区に移住。金沢市地域おこし協力隊として、地区を紹介するハンドブック『金沢×里山 みたに』の制作やコワーキングスペース「里山オフィス」の開設に取り組む。奥様と小学生の子どもの3人暮らし。