『いわて』は自分にとって帰る場所。釜石で見た夕日との出会いが、私の人生を変えました
釜石市 地域おこし協力隊 福田 学さん
- 移住エリア
- 東京都→岩手県釜石市
- 移住年
- 2017年
岩手県釜石市の地域おこし協力隊(釜石ローカルベンチャーコミュニティ・第1期生メンバー)として、2017年6月から釜石市での生活を始めた福田学さん。母方の実家があり、幼い頃から親しんでいた岩手県に孫ターンした福田さんにお話を伺いました。
目次
夏休みに帰る度かけてもらった「おかえり」
母方の実家が一関市(旧東磐井郡)藤沢町にあり、夏休みには1ヶ月ほど滞在していたという福田さん。生まれ育った東京にはない自然の中で過ごす夏休みを、毎年心待ちにしていたそうです。
「一関からはアクセスが比較的良い、宮城県気仙沼市に海水浴へ連れて行ってもらったり、従兄弟達と虫取りをしたり、夏の思い出を満喫していました。藤沢町にはお盆の頃に『藤沢野焼祭』という、縄文野焼きを再現した土と炎の祭典があるのですが、私も幼い頃遊びに行って面白かったのを覚えています。会場には縁日が並び、近所の同年代の子たちと遊ぶのも楽しみでした」
そんな福田さんが今でも覚えているのは、祖父母はもちろん、近所の方々がかけてくれた「おかえり」という言葉。「夏休みに行くたびに『おかえり』と笑顔で迎えてくれたことで、自分にとって岩手県は『帰る場所』になった気がしました」と語ってくれました。
印刷会社からカフェの運営へ。
移住のきっかけは尾崎白浜の美しい夕日だった
コンピューター系の専門学校で音楽編集やWebページ制作などのパソコンスキルを学び、写真加工や誌面編集を行う広告会社に入社。印刷工程のオペレーターに配属され、経験を積んでいきます。
「当時は残業が当たり前の時代で、締め切りに追われる日々を過ごしていました。定時で上がるのは、よっぽどの予定がある時くらいでした」
この頃の福田さんは大変ながらも学ぶことも多く、仕事にやりがいを感じていたと言います。就職氷河期だったこともあり、安定した職に就けたことに感謝し、経験を積むことに重きを置いていました。
大手印刷会社への転職も経験し、さらに高度なスキルを身につけていきます。
やがて入社から10年を過ぎた頃、ある出来事が起こります。2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。会社で大きな揺れを感じ、大型の印刷機器を部署のみんなと支えながら、なんとかやり過ごした福田さん。ニュースで流れる東北の映像を見て、とても心を痛めたそうです。
「震災直後にボランティアで岩手県に入れなかったことは、今でも後悔しています。けれど、その頃から『岩手に恩返ししたい』という気持ちが強くなりました。それと同時に、自分の生き方についても考えることが多くなりました」
東京で与えられた仕事を続けていくだけの人生で良いのだろうか…。
東日本大震災がきっかけで福田さんの岩手に関わりたいという気持ちは、無視できないほどに大きくなっていったのでした。
その後自分が本当に好きなこととしてカフェの経営に興味を持った福田さんは、印刷会社を退職。カフェ事業を展開する会社に転職します。「いつの日か被災した地域に住む方々が一つの空間に集うサードプレイスを作りたい」という夢を胸に、カフェの運営にかかわりました。
それと同時に、岩手での開業を目指して情報収集も開始。岩手のアンテナショップ『いわて銀河プラザ』でふるさと回帰支援センター主催のイベントチラシを手に取ります。
「北東北3県合同フェアに参加したのですが、ゲストの楽しそうなお話を聞いて、岩手に行きたい気持ちがますます大きくなりました。思わずゲストさんに声をかけ、岩手のお話をしていました」
そのイベントがきっかけとなり、岩手にかかわる人とのつながりがどんどん広がっていったそうです。
「イベントに参加するうちに『釜石市』の話を耳にする機会が増えて、興味を持ちました。2016年8月に一関を訪ねたときに釜石まで足を延ばしました。釜石では、タクシーに乗って観光しましたね。まちなかを車窓から見たり、釜石大観音に行ったり。運転手さんにおすすめのスポットを尋ねたら、現在住んでいる『尾崎白浜』の夕日を見せてくれたんです。本当に素敵な景色に心を打たれて『いつの日かここに住みたい』と思いました」
ちょうどこの頃は、東京での暮らしにも疲れていた時期でした。岩手での暮らし方も定まらず、もやもやしていた時期に見た美しい夕日。福田さんはとても感動し、今でもその光景が強く焼き付いているそうです。
その後「地域おこし協力隊」の存在を知った福田さんは、協力隊制度についての情報収集を始めます。岩手のイベントで知り合った方のお誘いで釜石市でも募集があることを知り興味をもったものの、「起業を前提とした制度」だったため、起業経験の無い自分には無理だと一度は候補から外したそうです。
「それでも、あの時見た夕日の美しさや三陸のポテンシャルの高さを思い出して、観光にかかわりたい気持ちも大きくなっていきました。地域の方が熱心に誘ってくださったのも、チャレンジに向けて一歩踏み出すきっかけになりました」
その後釜石市地域おこし協力隊に応募し、無事採用。協力隊としての活動がスタートしました。
地域の方と共に釜石市の魅力をゲストに届ける、現在の暮らし
現在は釜石市地域おこし協力隊として、観光プロジェクトにかかわっている福田さん。『サイクリングツアーガイド』と『民泊』を軸に活動しています。
「サイクリングツアーに参加したゲストが、自分が好きな景色の見えるポイントで同じように感動してくれるんです。体験を通じて大切なものを共有できる充実した時間です」
自転車を使ったアクティビティ未経験で始めた事業は、クロスバイクで釜石市内を走り回り、地域を知ることから始まりました。
「1年かけて作ったサイクリングコースは、一緒にやろうと言ってくれた旅館から出発し、地元の方が教えてくれた朝日が見えるポイントも通過するような、釜石のみなさんに支えられて出来た自慢のコースです。トンネルが多い地域ということもあり作るのに苦労したコースを、たくさんの方と一緒に走りたいですね」
さらに福田さんはこう続けます。
「民泊は、譲り受けた空き家を活用して運営しています。それまでは仮設住宅に住んでいたのですが、2年で退去ということで、出なければいけない時期が決まっていました」
内陸部と比べて家賃が高く賃貸物件が少ない地域のため、次の家をどうしようかと思っていたところに、知人から空き家の情報を教えてもらった福田さん。最初は軽い気持ちで内覧に行ったそうです。
「行ってみて驚きました。移住のきっかけとなった夕日を見た『尾崎白浜』の景色を窓から見ることができる物件だったんです。これは運命だ!と思い、譲り受けることを即決しました」
とはいえ、老朽化も進んだ物件だったため、まずは自分が住めるように少しずつ修繕することから始めたそうです。『民泊』を開業するための準備に取り掛かかるのには少し時間がかかりました。
「2018年12月に民泊の計画をスタートさせました。市役所や保健所への相談と書類作成等の手続きをすすめていきましたが、分からないことだらけでしたね。その都度保健所の担当者さんにアドバイスをもらいながら、何とかひとつずつクリアしていきました。2019年2月末に許可が下りて、開業までこぎ着けることができました」
現在は1度に4名まで受け入れ可能な民泊『おさきのいえ』として稼働中とのこと。
「すぐ下に住んでいる漁師さんがとったウニを殻付きで家まで運び、みんなで口開け(=殻をむくこと)体験します。宿泊者の方にとても好評です」
福田さんは今、地域の方との連携を通して、地域の豊かさをゲストに届けています。
釜石のファン拡大を目指して!これからの生き方、夢
「休日は、岩手県内で活動している地域おこし協力隊の友人たちに会いに行くのが楽しみです。岩手県でまだ行ったことがない地域も多いので、全ての地域に行きたいと目論んでいます。去年は、西和賀町でカヌーに乗ってきました。釜石とはまた違った風景や体験を通して、リフレッシュしながら、学ぶことも多かったです」
訪ねた地域では「その地域ならではの生き方」をじっくり話す機会もあり、地域の方と交流することで、たくさんのことを吸収できるそうです。
「岩手県に移住してから、自然が好きなことに気が付きました。気付かされた、と言ったほうがいいでしょうか。自然と触れ合う体験を通して、人生が豊かになった気がします。釜石でいうと、海と山の距離が近いので、より自然を身近に感じることができると思います。海の近くで紅葉が見られるんですよ。こういった、その地域ならではの景色を見られるのは本当に贅沢ですよね。それから、その地域の歴史も面白いんですよ。釜石は、今でいう『クラウドファンディング』で西洋式高炉を作ったような、当時から先進的な地域だったことを知って驚きました」
「明治時代の遺産がまちの至る所に残り、今でも市民の生活に溶け込んでいるのがすごい」。
そんな釜石市と今後について、最後にこう語ってくれました。
「釜石には、情熱を持ったアツい人が多いです。震災からの復興を盛り上げた地域の方に刺激をもらっていますし、自分も一緒に盛り上げていきたいと思っています。地元の方が『地元を好きだ』と思う気持ちを大切にしながら、三陸の魅力を発信し続けたいです」
福田さんの夢は、岩手・釜石でますます広がっていきそうです。
釜石市 地域おこし協力隊 福田 学さん / ふくだ がく
1977年生まれ、東京都出身。2017年6月より釜石市地域おこし協力隊(釜石ローカルベンチャーコミュニティ)第1期生としてIターン。
みちのくソレイユ代表として、サイクルツーリズム、民泊を通して岩手三陸沿岸、釜石のファン拡大を目指している。
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