愛媛県で柑橘農家始めました!(第50回毎日農業記録賞 受賞作品)
会社員→みかん農家 大久保 玲香さん
- 移住エリア
- 三重県→愛媛県伊方町
- 移住年
- 2018年
本記事は第50回毎日農業記録賞(主催:毎日新聞社)最優秀作品を一部再構成したものです
三重県生まれ三重県育ち、28歳で三重県人と結婚。旦那はトラックドライバー、私はOLという、普通の夫婦でした。
「なぁ、農業しないか?」入籍1カ月での衝撃告白。閃光を伴う落雷のごとく私の頭を直撃した2017年8月の告白。
目次
第1幕 協議開始
「やったこともないのに、なぜ農業なの?今の経験を活かした仕事じゃダメなの?」の問いに、「将来性のある仕事として、農業に興味を持った」更に「自分自身で何かを始めたい。起業したい。夫婦2人で始められる仕事が農業だ」と旦那。
不安は山積みでしたが、根っから楽天家の私。「何かつくるのは面白そうだし、始めるなら少しでも若い方がいい」と旦那より積極的に、「農業」「就農」のネット検索を始めた2017年9月。
第2幕 移住就農
就農に向け、まず県内の就農相談機関へ。就農へ向けて動き出したはずなのに、時間がたつほど、問題点が露になりました。そもそも、私たちは、栽培作物未定!土地なし!知識も技術もなし!そのうえ営農開始までの費用も不明、所得が得られるまでの期間も見えず、楽天家の私も、さすがに不安な気持ちになっていきました。悶々としている時、テレビに映る同年代の移住夫婦の姿があり、「これだ!三重に拘らず、移住就農しよう!」と勢いよく提案をしたのは私でした。そして、これが、愛媛県で柑橘農家になる第一歩となりました。
その後は、検索キーワードに「移住」を加え、東京の「ふるさと回帰支援センター」のサイトに辿り着き、週末には2人で上京しました。相談員の「移住先のイメージは?」の問いに、「雪が降らなくて、海が近いところで農業がしたいです」とお伝えしたら、「夫婦で移住して農業するなら、どの県も大歓迎ですよ」と言われ、たくさんの移住就農情報を紹介してもらいました。そんな中、愛媛の柑橘農家の話とオレンジ色に染まったみかん山は印象的で、「次は現地視察だ!新婚旅行ついでに愛媛に行こう!」と前向きな気持ちになりました。帰りの新幹線で2人、シュウマイ弁当を食べた2017年10月。
第3幕 愛媛県民
東京に行った2週間後には愛媛にいました。2人とも人生初愛媛。役場の案内でみかん山や空き家も見せていただきました。また、農家として独り立ちするまでの研修制度の話で、具体的な就農までのイメージが沸きました。その日のうちに、ここで柑橘農家を目指そうという気持ちになっていました。
その後も連絡を取り続け、1年間の研修制度を受けられることになり、三重のアパートを引き払い、必要最低限の荷物だけで引越しました。旦那の衝撃告白から約半年、愛媛県民になった2018年3月。
第4幕 大江集落
移住先は、佐田岬半島中央部の伊方町大江集落。最初に農業体験で訪れた集落で、地域の温和な風土や人柄に触れ、この地に決めました。「なんで大江なん?」と地元の人にも言われる不便な集落です。40戸ほどの集落には店はなく、お金が使えるのは自動販売機。(それも移住1年後に撤去)。コンビニまでは車で30分。「大江は不便だよ」と便利の良い地域での就農や生活を勧めてくれた方もいました。ただ、私自身は農業をするために来たし、便利の良い生活をしたかった訳でもなく、いわゆる、田舎暮らしを楽しもう!と、ここを選んだとこともあり不便生活にも満足していました。何より、柑橘農業をしていく上で、大江の環境に魅力を感じていました。
みかん山は、段々畑ですが、園内道が整備されていて、体に負担も少なく、齢を取っても仕事ができると考えたからです。もう一つは、大好きな海まで徒歩3分という立地。目指す農業をしながら、大好きな海の近くで生活する「ここが私のアナザースカイ」だったのです。旦那は農業研修生、私は町の地域おこし協力隊の農業振興担当に着任し狩猟免許取得を目指した2018年4月。
第5幕 田舎生活
移住してわかった田舎あるあるがあります。玄関に野菜や魚、時には手作りのお惣菜等が置いてあります。まるでリアル【ごんぎつね】。また、旅行のお土産が畑の野菜に変わり、その野菜がお肉に変わる、物物交換で【わらしべ長者】にもなります。
ただ、田舎の醍醐味である大自然が近いのは良いことなのですが、野生動物とも距離が近いのは悩みの種。地域の方と獣害対策の広域柵を設置したり、罠ガールのごとく狩猟免許を取得し、取得後は柑橘畑を荒らす害獣を捕獲したり。地域の方と一緒に赤いベストを着用して獣害対策をしたことで、頼りにされ、感謝されることも増え、地域の一員に認めてもらえたような嬉しさも感じました。
そして、移住後に一番驚いたのは、知らない人が、私たちのことを知っていることです。突然車越しに「大久保さん!」と話しかけられることもしばしば。いつかの移住者はいつの間にか人気タレント並みに顔が知れ渡っていました。そんな楽しい田舎暮らしの毎日をSNSに投稿。「たくさんの人に田舎暮らしの良さやリアルな現実を知ってもらい、こんな地域があるんだということを少しでも知ってほしい!」と思い投稿していた2018年8月。
第6幕 祖母「元子83歳」
移住に関して予想外の話がひとつ。夫婦2人の移住に、2年目の夏一人移住者が増えました。私の祖母元子(もとこ)83歳です。
三重のアパートで独り暮らしをしていた祖母に、「愛媛にきて手伝ってくれたら嬉しいな」と話したことがきっかけで、生まれ育った三重から愛媛に移住したのです。幸い、ご近所さんは、祖母と同世代の方が多く、老人クラブに誘われ友達もでき、週2回の移動販売車で買い物をし、井戸端会議も楽しそうです。何より、愛媛の生活が合っているのか、移住後は、風邪をひくことや体調を崩すことがなくなり、健康に生活しています。家族が増えた2019年初夏。
第7幕 四苦八苦
農業に関しては、ゼロスタートで、苦労もたくさんありました。剪定講習会は最前列で参加。しかし、自分の園地でいざやってみると、木の形が違っていて指導されたように枝が切れないことが度々ありました。夏の防除作業は、合羽の中を流れる汗に気分が悪くなり、持っているホースを投げ出したこともありました。「さぁ、収穫だ!」と山に行くと動物たちが収穫前の柑橘を食事した後で、涙が出たことも。
まだまだ、技術不足と経験不足で、思うような大きさの果実が作れなかったり、防除タイミングがわからず黒点病がたくさんついてしまったり、突然木が枯れてしまったり。そんな時には大先輩に「どうしたらいいですか?」とアドバイスを求めます。そのアドバイスを元に軌道修正しています。
就農初年度に初収穫のみかんを試食してきたところ、思っていた味とは程遠く、「このみかんが本当にお金になるのだろうか?」と心配になったこともありました。色づく柑橘に一喜一憂していた2019年秋。
第8幕 二人三脚
移住して5年。2人で管理する園地には、温州みかん、伊予柑、不知火、ポンカン、愛媛果試第28号、清見タンゴール、せとか、サンフルーツ、甘平と9種類の柑橘が実るようになりました。営農面積は約2ha。農繁期は想像を超える忙しさで、夜中まで選別作業が終わらなかったり、計画通りに作業が進まず2人で言い合いになったりと、考えが甘かったと思うこともあります。そんな時は地域の大先輩の「農業は夫婦2人が元気でできる産業」という言葉が胸に刺さります。2人だから移住したし、農業を始められたのだと思います。毎日一緒に作業していると、腹が立つこともありますが、これからも思いやりをもって、自分たちが選んだこの土地で、いつまでも2人で農業をしていきたいと思っています。
改めて、この地域での農業や生活は三重県での生活とは全く違いますが、今の愛媛暮らしのほうが自分たちにしっくりきています。それは、私たち夫婦と祖母を受け入れてくれた集落の方々、移住後に関わってくださった愛媛の方のおかげだと感じています。
愛媛に移住して、良かったー!と思う2022年8月
会社員→みかん農家 大久保 玲香さん / おおくぼ れいか
1989年三重県鈴鹿市生まれ。2017年の結婚を機に、同じ三重県出身の夫と共に「夫婦2人でできる仕事がしたい」と、農業を始めることを思い立つ。就農に向けて情報収集をするなかで、三重県にこだわらず、移住就農を検討。ふるさと回帰支援センターでの相談を通じて、2018年に愛媛県伊方町へ移住した。地域おこし協力隊を経て、現在は9種類の柑橘を栽培するみかん農家として奮闘中。