ライフステージや価値観の変化にあわせて問い直した「理想の暮らし」と変化の難しさ
洲本市 地域おこし協力隊、ライター 小林 力さん
- 移住エリア
- 東京都→兵庫県洲本市
- 移住年
- 2021年
神戸から車で1時間程とアクセスがよく、淡路島の中央部に位置している洲本市。この場所に移住する前は、都内のIT企業でシステムエンジニアとして働いていた小林さん。今はIT業界とはかけ離れた里山で「古民家の改修」や「地域の生業の支援」など、小規模集落を盛り上げるための活動に取り組んでいます。
目次
子育てをきっかけに変わった価値観
「子どもが生まれてから家族と過ごす時間が増えました。そして、今後の暮らし方や子育てをする環境について、妻と話し合うことが増えました」
子育てをきっかけに、家族での時間の過ごし方を見直すようになったと話す小林さん。子どもが生まれる前は、システムエンジニアとして仕事に打ち込み、成長実感が得られる環境に満足していたと言います。
「当時は大規模なシステム開発のプロジェクトに関わっていて、仕事が面白いと感じていました。一方で、子どもが生まれてからは自分の子が成長していく様子を見ながら、もっと一緒に過ごしたいと思うようになったんですよね。そのためには働き方を変え、暮らす環境を思い切って見直した方がよいかもしれないと考えるようになりました」
今後の仕事のキャリアと家族との暮らし方で、迷いもあったと言います。
そんな中で背中を押してくれたのは、配偶者の言葉だったと語る小林さん。
「わたしは昔から優柔不断だったんですよね…(笑)大きな決断って苦手だったんですよ。でも妻がキッパリと『東京じゃなくてもいい。どうせなら実家の近いところ(兵庫県)がいいな』と言ってくれたので、踏ん切りがつきました」
地域の人とつながり、現実的な手段を模索
地方移住を決意した小林さん家族は、まず東京都の有楽町にあるふるさと回帰支援センターへ訪れました。
「仕事の状況を踏まえて、2年後くらいに移住できたらよいなと考えていました。当時は移住したい場所も未定でしたし、なんとなく妻の実家のある兵庫県でよいエリアがあれば、話を聞いてみたいと気軽な気持ちで訪れました」
と話す小林さん。ふるさと回帰支援センターの担当者を通じて、淡路島の移住相談員とつながり、その後も継続的に情報収集を続けたそうです。
「相談員の方からは、現地の移住者と話せる座談会形式のオンラインセミナーや、現地で見てみたい場所や話を聞いてみたい人を訪れる1泊2日のオーダーメイドツアーなどを案内してもらえました。だから、情報収集はしやすかったですね。でも、都内で共働きをしながら子育てをしていることもあり、なかなか移住に踏み切るタイミングが難しかったですね」
移住の一番のハードルだったのが、移住後の仕事だったそうです。
転職を伴う移住だったため、移住後に生計が立てられるのかが不安だったと小林さんは振り返ります。
「『ふるさと回帰フェア(※)』に参加して、フィナンシャルプランナーから移住に関するお金の話を聞いたり、自分の生活収支について整理してみたりしましたね」
継続的な情報収集を続ける中で転機になったのが、地域おこし協力隊の募集だったそうです。
「将来的には柔軟な働き方ができるよう、個人で仕事をしていきたいと考えていました。でも、会社員としてしか働いたことのなかったわたしが、移住後にいきなり起業するのもリスクが高すぎるので(苦笑)。今後の起業を見据えて、当面の収入が確保できる地域おこし協力隊の3年間を活用しようと思い、募集に飛び込みました」
地域おこし協力隊の選考を経て、無事採用に至った小林さん。
最終的に移住相談から約1年後の2021年4月に、淡路島への移住が実現しました。
ふるさと回帰フェア…認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが毎年開催している移住フェア。全国各地域の自治体や団体が一堂に会する。
島暮らしで変わった「食」と「人間関係」
移住後は東京で暮らしていた時には経験したことのないことばかりで、刺激的な毎日だと語る小林さん。
「自然と触れる機会が圧倒的に増えました。農家の友達ができたので、子どもたちと一緒に野菜の収穫を手伝ったり、海辺で磯遊びをしたりしています」
昔から都へ食料を貢ぐ、御食国(みけつくに)と言われるほど食材が豊かな淡路島。
農家の知人や地域の人から、たくさんのおすそ分けをいただくそうです。
「玉ねぎやレタス、白菜、大根、レモンなど、その時期の野菜や果物をたくさんいただきます。定植や収穫などのお手伝いをする機会もあり、貴重な経験になりました。農業の大変さの一部を体験すると、生産者の方へのありがたみや食べ物に対する価値観も変わりました。採れたての野菜はおいしさが全然違うので、それだけでも小さな幸せですよね(笑)」
移住後の生活では食べ物を通じて新たな体験も多く、身近な暮らしの変化を強く体感したのだとか。
淡路島に移住してから、もう1つ大きく変わったことがあると語る小林さん。
「人間関係は、東京で会社員をしていた頃に比べて大きく変わりました。隣に誰が住んでいるか分からなかった東京での暮らしに比べて、濃くて深い関係性になっていると思います」
地方では都会よりも人同士の距離感が近い所が多いため、移住者が戸惑うケースも。実際に移住してみて、田舎の人間関係をどう捉えているのか小林さんに伺いました。
「コミュニケーションが苦手だったり、自分のことを説明したりするのが下手な人は、地域コミュニティに慣れるのに少してこずるかもしれませんね。わたしも移住して1年半が経って、半分地域側の人間になりましたが、外部から人が訪れた時は『どんな人なんだろう?』とやっぱり気になりますよね(笑)」
地域外から訪れた移住者の素性を注視する心理や行動は、地域の安全や秩序を守りたいと思う住人の気持ちを察すれば、理解できないものではないと語る小林さん。
「最初に大切なのは、丁寧に説明することだと思います。元気にあいさつして、雑談の中で移住の経緯や仕事内容、移住の目的をしっかり明かすことで、“何者か分からない不信感”は早々に拭えると思います」
小林さんは田舎の人間関係の特徴を体験から学び、今は地域の方から助けてもらいながら地域おこし協力隊の仕事を進めているそうです。
「都内在勤IT企業のシステムエンジニア」から
「島内在住限界集落のローカルエンジニア」へ
現在は地域おこし協力隊として、小規模集落にある古民家の改修や地域の生業の支援に取り組んでいるという小林さん。
「活動している集落は、高齢化に伴って人口が減少しています。でも、住人のみなさんが変化を受容される方たちばかりで、よい意味で限界集落っぽさがないのに最初は驚きました。地域住人が中心になって集落にキャンプ場を開設したり、地域外の大学生との交流を続けたりしている。そうした結果、関係人口が増えて集落が変わってきている。そんな変化の途中である場所で、わたしにしかできないことを考えながら活動しています」
地域住人の継続的な努力の末、若手移住者が集落内に飲食店を開業したり、集落にあった一次産業を事業承継したりしているそうです。
「集落に若い人が入ってきて、それぞれが事業を持って走りだしました。集客するには立地的に難しい環境なので、事業を継続させていくには工夫が必要だと思っています。今は点と点になっている事業が、線でつながるような拠点と仕組み作りを頑張っていきたいですね。この集落で面白いことができるように、地域の魅力を開発していきます」
集落内の空き家を改修して、地域拠点の整備を進める小林さん。
地域の人々と協力して、今後も積極的に活動していく予定だそうです。
現地の情報収集は人とつながる工夫を
最後に、移住を考える人へアドバイスをいただいた。
「地域の外からだと、見えている範囲はとても狭く、得られる情報は少ないと思います。解決策としてオススメしたいのは、移住前から現地の人とつながっておくことですね。ふるさと回帰支援センターや自治体が主催するオンラインセミナーなら、遠方でも気軽に参加できると思います。そして、ただ参加するのではなくて一歩踏み込んで、移住前から関係性を作っておくとよいと思います」
現地の人と繋がっておくことで、地元の人目線でしか得られない情報や身近な暮らしの情報が得られやすくなると話す小林さん。
先輩移住者とつながることができれば、移住者目線で暮らしの実状やギャップなどが聞けるかもしれません。
あなたの気になる移住先にはどんな先輩移住者がいるか、探してみてはいかがでしょうか。
洲本市 地域おこし協力隊、ライター 小林 力さん / こばやし りき
新潟県出身。都内のIT企業でシステムエンジニアとして7年間システム開発に従事。その後、子育てをきっかけに移住を決意。2021年4月に淡路島に移住。
現在は、地域おこし協力隊やライターとして活動中。洲本市内の小規模集落で、古民家の改修や地域産業のWeb集客支援など、地域の活性化に取り組む。移住先での体験談や生活収支など、移住者向けの情報発信メディアも運営中。
■Webサイト
移住後の働き方戦略室
https://iju-kobayashike.com/