【後編】広島はなぜ「強い」?Vol.2
しなやかな心、応援する心。
目次
江戸時代の建物も残る地区で、7軒の空き家を活用。
続いてご紹介するのが、合同会社『よーそろ』代表の井上 明さん。
呉市の大崎下島・御手洗(みたらい)地区で、江戸時代の船宿を活用した『船宿カフェ若長(わかちょう)』の運営をはじめ、これまで7軒の空き家を改修し、デザイン雑貨店や飲食店、ゲストハウス、1日1組限定の宿などにしてきている方です。
2008年、妻の実家がある呉市に移住し、重要伝統的建造物群保存地区にも指定される御手洗で観光ボランティアを始めたことをきっかけに、2011年、『若長』をオープンさせた井上さん。
島のレモンを使い、試行錯誤してつくりあげた『若長』のメニュー「檸檬(れもん)ぜんざい」が話題になり、その後も江戸時代の食文化にヒントを得た「鍋焼きうどん」の店を出したり、最近では、瓶詰めスイーツの「黄金羊羹(こがねようかん) 檸檬」「黄金瓶詰 レモンカード」などを開発し、新しく始めたウェブショップでも販売しています。
みかんのドライフルーツを天ぷらに!
そんな商品開発を主担当するのは、『よーそろ』番頭の矢野智之さん。御手洗の空き家を活用してつくったシェアハウス『港町長屋 染初(そめはつ)』内に食品加工場を設け、工場長として日々、新しい味の開発に勤しんでいます。昨年は島の柑橘を使い、ブランデーや白ワインをふんだんに使って煮込んでつくった大人向けかき氷シロップが大ヒットしたのだとか。
また、「はるか」という品種のみかんのドライフルーツをつくり、それもおいしいのですが、それを天ぷらにすると、さらに絶品だったそうです。
井上さんと矢野さんは、「ここでは『発見』の毎日。島で育てられている柑橘だって、知らなかったものがたくさんありますし、発見したものを組み合わせ、新しいものをつくり出す。組み合わせは無限です。失敗ばかりですが、経験を積み重ねるうちに『あ、これはいけるんじゃないか?』とわかるようになってきたりして、それが楽しい」と話してくれました。
中学生や高校生がやって来るように。
井上さんのもとには今、中学生や高校生が尋ねてくるようにもなっています。
「将来、地域の役に立つ仕事がしたい」と言って、その経験づくりのために『若長』でアルバイトをしていた女子高生がいたり、大学進学で「観光学」の道に進みたいから、一度、話を聞かせてほしいとやって来た高校生もいたそうです。
また、中学3年のときに、自分の部屋にする家の蔵を自分で改修するため、DIYを習いたいとやって来た男子もいます。
その後、料理に興味を持ち、『よーそろ』が運営する和食レストラン『新豊(しんとよ)』でアルバイトをしています。今は高校2年生。土鍋など陶器にも興味を持っているので、男子自らが自分の目で土鍋や箸、茶碗などを揃え、料理もし、その男子の名前を関した「御膳」をお客さまに提供させる、ということを井上さんはやってみたいそうです。
「若い子がチャレンジする土台も御手洗にはあります。キッチンだって使えるし、料理をお客様に出すための店もあります。『やりたい』という子がいたら、『やればいい』と背中を押しています。若い世代の『好奇心』を受け止められる舞台がここにはあります」と井上さん。
「外に向かって広がったり、つながることも大切ですが、僕の場合はここに根を張り、ここで軸を持つことを大切にしています。江戸時代から栄えた港町としての歴史についても、学べば学ぶほど奥が深く、おもしろいです。御手洗でしか表現できないことはなにか? を突き詰め、外からわざわざ来たくなるような『選ばれる』場所にしていきます」
どんなものでも、100回つくればプロになれる。
そんな話を聞いた夜、最近、井上さんが最近はまって、しょっちゅうつくっているという手料理のナポリタンをごちそうしてくれました。ほどよい茹で加減の中太麺に、濃厚なトマト味、そしてマッシュルームがアクセントになって、とてもおいしいナポリタンでした。
「どんなものでも、100回もつくればプロになれますから」。
井上さんにとってはなにげない一言だったかもしれませんが、カフェにはじまり、すべてをイチからつくってきた井上さんを象徴するような言葉に思えました。
★今回ご紹介した井上さんの詳しい移住ストーリーは下記ページにて掲載しています。
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「この島の素晴らしさをゆっくり味わってもらうために、カフェをオープン」
<ライター:小西威史(パカノラ編集処)>