【前編】広島はなぜ「強い」? Vol.3
巨船、家具、デニム、味噌……、工場を一般開放!
目次
全長200メートルクラスの船を造る。
これまで、広島に「強さ」を感じる理由の一つには「ものづくり」があるからだ、と書いてきました。今回は、その「ものづくり」でも横綱クラス、圧倒的スケールを誇るものづくり、造船業のお話から。
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ときには全長200メートルクラス、50階建ての超高層タワーマンションほどの長さの巨船を造る方法として、「ブロック建造法」があります。船をブロックごとに区分けして造り、その後、溶接でつなげていく工法です。そのブロック建造量で日本一を誇る工業地帯が、尾道市因島(いんのしま)にあります。『因島鉄工業団地』です。
ここでまずご紹介したいのがこの方。企業のブランドデザイン構築などを手掛ける株式会社『プラス』代表の酒井裕次さんです。
「世界で一番働きたい仕事」。
酒井裕次さんは因島出身。東京での広告会社勤務を経て、2006年に独立。2011年に因島にUターンし、東京と因島の2拠点で仕事を続けています。
酒井さんは、島の基幹産業であり、私たちの暮らしを支える食べ物や物資を運搬する船を造る仕事のすごさやおもしろさが、地元の若い世代に伝わっていない、知られていないことを残念に感じていました。
そこで、酒井さんがプロデュースし、実行委員会による主催で2016年から始めたイベントが『造船鉄工祭』です。造船鉄工業を「世界で一番働きたい仕事にする」ことをミッションに、イベント開催の2日間、工業団地内を開放し、工場見学ツアーやものづくりワークショップなどを行い、その魅力を伝えています。昨年10月に第4回が開催されました。
好奇心がものづくりを生み、暮らしを豊かにする。
また、イベントに合わせて制作し、市内の小・中学校、高校にも配布したパンフレット『造船鉄工作本』には、工業団地内の工場でどのようなものづくりが行われているのか、会社別の図解を掲載しました。
パンフレットの冒頭ページには「POSSIBLE TO MAKE―やれば、できる―」と題し、こんな文章が書かれています。一部を抜粋、引用します。
「ものづくりの始まりは、やってみたいという好奇心から生まれました」
「何もないところに絵を描いて線を引き、設計図を作って、材料を切ったりくっつけたりしながら組み立てていきました」
「世の中の便利さや豊かさは、あの工場の好奇心でつくられています」
たしかに、私たちの暮らしは「ものづくり」に支えられているのだと気づかせてくれます。
「移住」という言葉はなくなる?
酒井さんは昨年から広島県庁の移住・定住促進事業にも関わり、『ふるさと回帰支援センター』で開催したトーク&ワークショップ「因島移住フェス」でファシリテーターも務めました。通常の3倍、約160人を集めたトーク&ワークショップになったそうです。
「因島の造船業は、戦国時代、このあたりに本拠を構えた村上海賊の造船技術から受け継がれ、発展したものだといわれています。このすばらしい産業に光をあて、『産業』を受け皿にした移住促進をしていきたい」と酒井さんは話します。そして、こう続けました。
「地元の若い世代の就職先に選ばれるため、また、都会からの多様な新しい才能を受け入れるため、工場側も柔軟に『雇い方』改革をしなければいけません。これからのボーダレスの時代に、『移住』という言葉もなくなるかもしれません。何がやりたいか、何を生むか、ということで仕事を考えれば、地方はおもしろいはずです。グーグルもアップルも、ニューヨークで生まれたわけではありません」
酒井さんは「これからも自分は『翻訳者』として、地域の価値を高め、魅力を伝えていきたい」と教えてくれました。
後編では、多彩な地場産業が発展している「ものづくり」のまち・府中市で活躍されている方をご紹介します!
<ライター:小西威史(パカノラ編集処)>