【後編】広島はなぜ「強い」? Vol.3
巨船、家具、デニム、味噌……、工場を一般開放!
『瀬戸内ファクトリービュー』を初開催。
続いては、府中市から。因島から本州側へ橋を渡って尾道市街を抜け、北へ向かうと府中市です。府中市も「府中家具」に代表される木工品、繊維や機械・金属、味噌など、多彩な地場産業が発展し、世界に知られる企業が多く集まる「ものづくり」のまちです。
府中市では昨年11月、オープンファクトリーイベント『瀬戸内ファクトリービュー』が開催されました。府中市と福山市の備後(びんご)地方をエリアにして、約20社のものづくり企業が参加。期間の2日間、工場が開放され、作り手による解説付きで工場見学ができたり、ワークショップで木工品や革製品、味噌作りなどが体験できました。
この開催を呼びかけ、実行委員会を立ち上げて成功に導いたのはNPO法人『府中ノアンテナ』です。初回のイベントながらも、東京など遠方からも含めて約2000人の参加者を集めました。
『府中ノアンテナ』は2011年に発足。「府中のファンや府中で暮らす人を増やし、明るく、楽しい地域社会をつくること」を目的に、地域を紹介するフリーペーパーの発行や空き家の再生・活用、子どもたちの未来に向けた木育事業、イベント開催などを行ってきています。
『府中ノアンテナ』理事の小谷直正さんに、『瀬戸内ファクトリービュー』開催の背景を聞いてみました。
時代に合わせた変化。小回りが利く強み。
「瀬戸内の海を見たり、山を見るのと同じ感覚で『工場』を見てもらいたい。海や山が近くにある暮らしはいいな、と感じるように、工場見学で職人と企業の技術力を感じ、ここには仕事があって、それをとりまく環境として、住みやすさもあることを感じてもらいたい。そんな思いが『瀬戸内ファクトリービュー』の名称に込められています」
そう教えてくれた小谷さんは、府中市出身で、東京の化学メーカーで7年間勤務した後、2012年に家族とともにUターン移住した方。帰郷後、フリーランスでウェブ制作業を始めるなか、地元の歴史あるものづくりの会社とのつながりも広がったそうです。『府中ノアンテナ』には2013年から参加しています。
「備後のものづくりの企業には、小回りが利く強みを感じます。今はデニムをつくっている工場も、かつてはモンペの生地になる備後絣をつくっていました。時代に合わせて、つくるものを変えていけるのです」。ここでも「強み」というキーワードが出ました。そして、これから迎える時代に対する「強み」と「課題」も話してくれました。
「府中」や「備後」を、「ミラノ」のようなブランドに。
「D to C、メーカーと消費者が直接つながるダイレクト・トゥー・カスタマーの時代に、資材調達から加工、製造までができる産地は強いです。ただ、いいものをつくっても、最後にそれを『伝える』力が必要です。府中の場合、それが弱かったところですが、『ファクトリービュー』は、その『伝える』ための試みでもあるのです。これからも毎年開催していきます」
そう語る小谷さんは、「イタリアのミラノのように、『府中』や『備後』という地名が世界的なブランド価値を持つようなまちにしていきたい」と話していました。
『府中ノアンテナ』が拠点を構えるのは、中心市街地にある昭和初期に建てられた『旧平地呉服店』内。歩いて1~2分のところには、明治5年創業の『金光味噌』もあります。『金光味噌』もまた、『ファクトリービュー』に参加していました。
小谷さんはあるとき、地域づくりに関するセミナーに講師として招かれた際、府中での取り組みを説明する資料に「地方による、地方のための、地方のプロデュース」というタイトルをつけました。地方に根づき、地方にいるものが、その地方に必要なことに取り組む。そんな思いが込められています。
持続性のあるプロデュースを担い、時にはプレイヤーになる『府中ノアンテナ』。そして進取の精神を持つ数多くの企業があることが、府中の「強み」そのものかもしれません。
<ライター:小西威史(パカノラ編集処)>