【前編】広島はなぜ「強い」? Vol.4
「知り合い」経済、「チャレンジ」経済。
目次
「安全」と「安心」の違い。
災害に備えて堤防を造ったり、防犯カメラを設置したりして得られる「安全」な社会と、何かあったときにあの人は大丈夫かな? と思い合い、すぐに助け合えたり、頼りにできる人がいて「安心」して暮らせる社会は、少し意味合いが違うように感じます。
安心して暮らせる場や働ける場、そして、家族や仲間、地域の人たちと笑顔でいられる場としての「強さ」も、広島にはあります。
本シリーズもいよいよ最終回。前編ではそんな「安心」して暮らせる広島の魅力をご紹介します。
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今回、まずご紹介するのが世羅町にあるカフェ『雪月風花 福智院(ふくちいん)』店主の吉宗五十鈴さん。世羅町は広島県の中東部の高原地帯に位置し、良質な水に恵まれ、果物や野菜の生産が盛んで、ワイナリーもあります。
『福智院』は、弘法大師によって開かれ、荘園として栄えた「今高野山」の参道にあった築170年の宿坊を再生し、2018年にオープンしました(※営業日、時間などはFacebookページでご確認を)
世羅で育てられる在来茶。土地本来の「甘み」や「香り」を。
『福智院』で出されるのは、世羅在来の煎茶やほうじ茶、和紅茶などの飲み物に、白玉ぜんざいやお茶パフェなどの和スイーツ、季節メニューの汲み上げゆば膳(冬季)、かき氷(夏季)などです。
世羅在来茶は、地元で自然農法でのお茶づくりに取り組む『Tea Factory Gen』のお茶を使っています。樹齢60年ほどの木から年に1~2回しか摘まず、木に栄養をいきわたらせた、世羅の土地本来の「甘み」や「香り」を楽しめるお茶です。もち米や米粉、きな粉なども世羅産、「ゆば膳」の豆乳も地元の『とうふ工房ちだち』のもので、食材はほとんど世羅か広島県内のものを使っています。
食材は、「知り合い」の農家さんやお店から。
吉宗さんは「食材の仕入れ先は、『知り合い』優先です。農家さんでもお店でも、顔がわかる人のところから買っています。やっぱり、自分が知っている人から買いたいですよね」と教えてくれました。
たとえば「お茶うけ三種盛り」という、「唐まんじゅう(弘法大師ゆかりの世羅銘菓)」と煮豆、漬物がセットになったメニューがあるのですが、その唐まんじゅうは参道入口近くにある『山田玉泉堂』、煮豆は近くの八百屋『たかはし』から仕入れ、漬物は町内にある産直市場に卸している知り合い女性の漬物(ときには知り合いからもらった野菜を自分で漬けることも)を出しています。
「顔がわかると、お互い困ったときには助け合えます。食材が切れたのに、店が忙しく、お客様がいて買いに行けないときは、わざわざ配達してくれたりもします」
そう話す吉宗さんは、「食べもの付き定期購読誌」の『ひろしま食べる通信』の副編集長も務めています。広島県内の食材を対象に、毎号一つをフューチャーし、生産者の思いをていねいに伝えています。
隔月刊で発行し、これまで取り上げた食材は、「金原さんの大和白竜蓮根(れんこん)」「白根さんの林檎」「もみじ水産の大和しらす」「兼田さんの自家養殖の海苔」「片岡さんのジビエ(鹿肉・猪肉)」……と、本当にさまざま。どの食材も生産者がこだわりをもってつくったり、獲ったりしていますが、ここで紹介する生産者も「基本的には『口コミ』で探しています」とのこと。そして、そのときに取材した相手が、『福智院』の食材の仕入れ先になったりもしています。
子どもたちが100円のお駄賃をもらい、喜んで行く先。
そうして広がっていく地域とのつながり。吉宗さんは男の子2人の母親でもあるのですが、『福智院』の掃除のお手伝いを2人がしてくれた後は、100円ずつお駄賃を渡すそうです。
2人がその100円を持って行く先は、唐まんじゅうの『山田玉泉堂』。ここでは駄菓子やアイスも売っていて、そこでお菓子を買うことが2人の楽しみなんだとか。『玉泉堂』のお母さんも元気な2人が来てくれるのを喜んでくれているそうです。
そんな、「知り合い」経済が世羅にはあります。
次回最終回!次々と新事業を立ち上げ、「チャレンジ」経済に取り組む方をご紹介します。
<ライター:小西威史(パカノラ編集処)>